人気記事

終電を寝過ごしたら不思議な場所についた

2019年11月15日

92以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/31(日) 18:14:09.15 ID:2jq3IIUg0


「ニニ―」

「どうしたゴボウ?」

「ツガが仕込み手伝ってってー」

「分かった、今行く」

とりあえず考えてもしょうがないか。

小箱を胸ポケットに戻すと、ゴボウと一緒に厨房へ向かった。

「ニニ、今日予約のお客さん多いからお願いね」

「16人かぁ……何かの打ち上げ?」

「ミャコ銀河楽団の演奏会が昨日ツンガリ森の方であってさ、その楽団員が皆来るの。こないだハープ持ってきたお爺さんも楽団員だよ」

「ふえー、あのオヤジ案外すごかったんだなー」

ゴボウが感嘆の声を漏らす。

確かに不思議な雰囲気のある人だったが、有名楽団の楽団員とは。

「あ、そっちのエビとって」

「? エビなんてないぞ?」

「……ヒヤムギの仕業だ!ゴボウ捕まえてきて!」

「合点!」

94以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/31(日) 21:37:40.79 ID:2jq3IIUg0


「にゅふふふ、ツガがなにやら準備してると思ったら、今日は大入りなのね。おかげでいい材料が……」

『ねんねこ』の近くのこんもりとした丘。

てっぺんに座る盗人の手には、エビのたっぷり入ったボウルがあった。

一つつまみ、殻ごと口の中に滑り込ませる。

「んめっ!ぷりエビのうまさは世界一よう!」

「あーっ! やっぱし食べてる!」

「んん? ゴボウじゃないの、さてはぷりエビの匂いに釣られてきたなっ」

「ツガが中で怒ってるぜー」

「なぬっ、何故俺の仕業だとばれたっ」

「他に誰がいるんだよ、お前食い物に対して見境なさすぎにゃろ」

「……ゴボウ」

「何?」

「ぷりエビ二匹あげるから見逃して?」

「はあ?」

ゴボウは呆れ顔。

「四匹はよこせ!!」

「ぜーったい嫌だ!後七匹しかいないのよう!!」

「よっこせーーー!!」

「嫌ぁあ!!」

盗人が二匹に増えた。

95以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/31(日) 22:04:26.95 ID:2jq3IIUg0


「ぜ、全部食った……?」

「どーも」

「ぷりーっ」

「ニニ、なくなってた時点で半ば諦めてたよ俺は」

お客さんが来る直前で二匹は帰ってきた。

頭を差し出しているのは来たるげんこつへの準備に他ならない。

「なくなったものはしょうがない。ゴボウとヒヤムギにあげる予定だったカキを出そう」

「カキ!」

「食べたいのよう!」

「ニニー、窯でカキ焼くから手伝って」

「はいはい」

「くおーっ何故オイラはぷりエビに負けたのだぁあーーーっ」

「食べたいのよう食べたいのよう!!」

その時玄関のベルがからころと鳴った。

お客さんだ。

「予約してたミャコ銀河楽団のものですだ」

「おかえんなさーい、席へどーぞ」

96以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/31(日) 23:05:04.16 ID:2jq3IIUg0


「腹減っただずっぺ」

「うぃー酒が飲みたいぞうー」

「ひょえ、綺麗な店」

ぞろぞろと入ってきたのは楽団員の面々。

団長らしきたぬきがツガに挨拶をして席に着いた。

「えーそれでは皆さん、昨日はツンガリ森での演奏お疲れでござんした。わだすも指揮棒を振るう手に思わず力が入ったでござんすが、最後まで良い演奏が出来たでご。今日は自由に飲んで、疲れを癒しておくんなっし。乾杯!」

「「「かんぱーいっ」」」

流石に有名楽団とだけあって、皆いいワインを次々に空けていく。

料理をつまみながら会話する姿も優雅だ。

「しかし久々の大盛況だ」

「皆食べっぷりも飲みっぷりも素晴らしいな。演奏家も体力勝負みたいなところがあるからな」

「前来た医者の先生たちもこんなだったな」

「うむ」

97以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/31(日) 23:15:57.29 ID:2jq3IIUg0


「でも普通は席が足りなくなるような団体て予約受けないよな。何で今回に限って」

「ふふ、ちょっとした俺のわがままでね、ゴボウとヒヤムギにはけっこう動いてもらったんだ。ぷりエビくらい見逃してやるさ」

「?」

ツガは意味深な笑みを浮かべて、それ以上は何も答えてくれなかった。

お客さんは相変わらず(あくまで優雅に)どんちゃん騒ぎを繰り広げている。

「うううっ いい気分だどーっ」

「こっこんないいワイン飲んだ日にゃ、思いっきり演奏せにゃ気が済まんだす!!」

「ほーだほーだ!」

「楽器ば欲しいどーっ」

「ほだほだーっ」

お客の様子が何だか変だ。

ツガを見ると楽しそうに顎をさすっている。

「ふふ、来た来た」

「何が?」

「まあ見てなよ」

ツガは席を立って大きなおなかをゆすっている団長のところに行き、こっそり耳打ちした。

「ポンズさん、表に準備出来てますよ」

「あーっわざわざあんがとなっし、支払いには色つけるでな。おおい皆!表に楽器があるぞう!!」

「なにぃ団長、それを早く言わんか―――っ!」

「わおう俺のトランペットが来とるゾウ!!」

「私のピアノも!」

「俺のもだ!!」

「さあ早く演奏しよう!」

「満点の星空に!」

「素敵な隠れ家『ねんねこ』に!」

「ミャオ銀河楽団に!」

「「「かんぱーいっ!!」」」

「ツガ、これは……」

「この楽団の人たちは皆、酔っぱらったら演奏せずにはいられないんだってさ」

99以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/01(月) 01:45:08.39 ID:Nfaqx+iAO

ツガは何能力者なんだ…

100以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/01(月) 09:14:37.80 ID:oxJGL1FYO

陽気な人たちだな
今リクエストしたら演奏してくれそう

102以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/02(火) 01:37:47.48 ID:qIYBRWp70

団長は小高く盛った土に上ると、俺とツガに向かって一礼した。

ゴボウとヒヤムギは機材搬入で疲れてしまって、店の中でお駄賃の大トロを食べている。

辺りは水を打ったように静かになった。

酔っていようが演奏家たちは、流石、と思わせるような張りつめた空気を持っていた。

「では、『ウミネコ協奏曲』……それっ」

【♪】

「おおっ」

「なんという迫力だ!」

なるほど、有名楽団であるのももっともだ。

各楽団員の実力もさることながら、ポンズと言ったか、指揮のたぬきが素晴らしい。

荒々しく指揮棒を振って全員をまとめ上げ、その背中からは曲に乗った感情さえ伝わってくるようだ。

音量と感動で唇がびりびりと震えた。

何事かと出てきた住民たちも、あっという間に口を半開きにして演奏に聞き入った。

「贅沢だなあ」

「ああ。なかなかお目にかかれないぞ、ここまでの楽団は」

103以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/02(火) 02:10:53.37 ID:qIYBRWp70


皆赤い顔してすごい演奏するなあ。

酔ってない時の演奏と比べても遜色ないとの話だが、果たしてそれは素晴らしい事なのだろうか。

などと考えているうちに、嵐のような演奏は終わった。

「あーきんもぢよがったっぺー!」

「くああーっ久々に来たべさあ」

「まだ演奏したりないわ!」

「ははは、来週の演奏会にお預けだな!」

称賛の声や拍手に混ざって一際大きく聞こえるのは、満足げな演奏家たちの声だ。

ハープの人は大あくびをしているところだ。

「やあやあマスターさん、ほんにあんがとじゃす。おかげでいい打ち上げになりました」

「こちらこそ、あのような素敵な演奏を聞かせていただいて……」

話の通り、支払いには多少色を付けてくれたようだ。

ツガはむしろ割引したいくらいなのに、と苦笑する。

「ほいじゃあ、おやすみなせえ!」

「『ねんねこ』ありがとう!また来るよ」

「お疲れ様―」

「ねんねこー」

「あいー」

酒も入り、演奏ですっかり酔いの回ったお客たちは、眠そうな目をこすって帰路に着く。

俺の心は、不思議な満足感で満たされていた。

106以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/02(火) 13:39:18.25 ID:0oaLMHi2O

ゴボウとヒヤムギはこの楽器をまた片付けるわけか
なるほどぷりエビくらい見逃してやるという言葉にも頷ける

SS, 名作

Posted by wpmaster