終電を寝過ごしたら不思議な場所についた
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 11:39:20.78 ID:8zDgO31t0
『月光タンポポ』
翌日。
起きてリビングに行くと二人と一匹が暴れていた。
この『ねんねこ』は一階がバー兼リビング、二階が寝室等の生活空間になっていて、下に降りるときは大黒柱から突き出した階段を使う。
「んにゃはははっ、ツガぁアその綿毛くれーーーっ!」
「楽しいのよう、面白いのよう」
「お前ら、毎年の事だがこれ猫じゃらしじゃないぞ!」
綿毛になった月光タンポポが四本、ツガの手に握られている。
猫たちが眼を輝かせて追っているのはそれだ。
「にゃーーーーん」
「にゃああああん!」
「やめろって綿毛が散る!!」
もしかして楽しい事ってこれか?
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 11:53:29.98 ID:8zDgO31t0
「全く、今年のハルワタリで使えなくなるとこだったぞ」
「どーも」
結局騒動は、二匹の頭にたんこぶを二つくっつけて終わった。
角度の違うお辞儀で謝罪する。
「おはようニニ、朝ごはん出来てるぞ」
「おはようツガ。タンポポちゃんと綿毛になってるな」
「オレが取ってきたのだから当然よ、オホホホ」
朝食を食べながら、「ハルワタリ」という謎の単語について聞いた。
「ハルワタリってのはこの辺であるオマツリの事だよ。店とかもたくさん出るんだけど、その綿毛使って飛ぶのがメインだな」
「飛ぶ?」
「まあまあ、楽しみにしておきなさい、オッホホ」
「今年こそオイラが飛ぶのだぜ、ニャハハハ!」
またはぐらかされた。
「夜になったらツンガリ森に行こう」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 18:35:40.91 ID:8zDgO31t0
夜。
「ドングリまんじゅう安いよっ」
「はぁー夜のおともにトマトソーダ割はいかが」
賑やかだなぁ。
一体どこにこんなに住んでいたのか、と思うくらいに人や猫や動物で溢れかえっている。
でっかい葉っぱとつっかえの棒で簡単なテントを作って、誰もかれも、忙しそうにモノを売って声を張り上げている。
通りすがりに見た「火山おむすび」にちょっと惹かれた。
「多分狐尾っぽのへんからも店が来てるんじゃないかな。ホラ、あれとか」
ツガの指さす先には、『割って割れないコンコン卵酒』。
頭に鉢巻をした頑固そうな狐と、息子さんだろう、小さい子狐が店の外で精一杯声を張っていた。
様子が愛らしくて、思わず声をかける。
「やあキミ、一杯くれんかね」
「あ、オイラも飲む!」
「ヒヤムギも」
「何だ、皆飲むのか。 四杯くださいな」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 18:39:02.55 ID:8zDgO31t0
「あんがとなっし、一杯銅貨三枚だよ! オヤジ、卵酒四丁!」
「あいよう! あんがとなっし!」
親父さんは店の冷蔵庫を開けると、中から卵を4つ取り出し、ピックのようなもので天辺に孔を開けてから渡してくれた。
その後で、ストローのような植物の茎。
「突っ込んで飲むんだよ」
「生卵を?」
「ははは、卵酒なんだから大丈夫」
横を見ればゴボウとヒヤムギはもうちゅうちゅうとやっていた。
真似をして啜ってみる。
「おおっ、ほんのり甘くてうまいぞこれ!」
「あの店のお酒、結構有名なんだよ」
不思議な甘さだ。
何にも混じりけがないような、透き通った味。
「ところで『割って割れない』って何なんだ?」
「ジャバラ卵は恐ろしく固くて、天辺のほんの少しのとこ以外は内側からしか開けられないんだよ」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 19:28:04.98 ID:8zDgO31t0
「あらん、もうなくなったわあ」
「ヒヤムギの食欲には参るな」
「俺の、まだあるけど飲む?」
「きゃん、あんがとあんがとニニさまさま」
俺が差し出した残りもぺろりだ。
ヒヤムギは舌なめずりをしながら、また食い物屋屋台の物色を始めた。
「さあ、そろそろじゃないかな?」
「何が?」
「ハルワタリ」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 22:15:01.55 ID:XIW4inl+o
不思議な雰囲気だ
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 21:19:01.21 ID:8zDgO31t0
屋台も慌てて閉める準備を始め、辺りは月光タンポポを持った人であふれた。
さっきの子狐も居る。
「ホラ、月光タンポポを見てごらん」
「うっ!」
それは燦然と輝いていた。
朝や昼とは比べ物にならないほど眩しい。
「月光タンポポは三日月の光を浴びて輝くんだ。地面に突き刺して」
地面に刺すとタンポポの茎はどくどく脈打ち、綿毛を膨らませてゆく。
「地面が吸収していた光を吸うんだよ。それで大きくなるんだ」
「へえ」
こんな植物は元の世界にはない。
こんな魅力的な性質は。
「さあ、始まるぞ」
「にゃん、オイラのタンポポが一番飛ぶのだ!」
「おっほほ、今年こそいただきよう」
「デブには無理さ」
「ほほほ、重さは関係ないでよ」
《皆さまお待たせしました、只今よりハルワタリを始めます! 茎に掴まって!》
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 22:26:50.37 ID:8zDgO31t0
一陣の風が吹いた。
「おっ」
「にゃっ」
「ほほ!」
「来たぜ」
ふわりと浮いた。
根元でふつりと切れた茎は、確かに俺の重さを感じていないようで、規則的な速度を持ったまま宙へ、いや月へ向かって真っすぐに昇っていく。
「渡るのよう、お月さんに向かっていくのよう」
「あれ、ヒヤムギの速度落ちてない?」
「冗談じゃないわっ、コラタンポポ、もーっと昇れェ!」
そうか、ハルワタリ。
今俺たちは贅沢なほど月光を浴びて、冬から春に渡っていく。
皆の乗った綿毛はさらさらと種をまきながら高く高く、中空に銀河を作った。
「おおっ、ニニのが随分上っているわよう!」
「ほう、こりゃ今年の一番はニニが取るかもなあ」
俺の乗った綿毛は一段と高く上った。
風の向くままにタンポポは浮き、またひとつ月に近づいた。
「こりゃ絶景だな」
見上げればはるか天高く、大きな大きな星のタンポポが煌めいていた。
――『月光タンポポ』【完】
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/18(月) 02:34:08.21 ID:EMdhWH8Io
素人意見だけど宮沢賢治っぼい
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/18(月) 07:24:01.21 ID:GefSjfkPO
なかなか面白いな
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 22:44:41.49 ID:8zDgO31t0
『海を見るには』
「あぢぃのじゃああ」
「ヒヤムギ止めて、余計暑くなる」
「ホラ皆、休憩で飴サワーでも」
「オイラ三杯くらい欲しい……」
「そんなに飲んだら汗が止まらなくなるぞ」
夏、夜。
ハルワタリから一月経ったくらいでもう、外では蝉が鳴き出していた。
『ねんねこ』の支柱である木も外観が変わって、店の中にまで青々とした葉が侵入していた。
葉っぱを少しちぎって絞るとライム果汁の様な液が出るので、お酒に入れて利用している。
「んめっ!」
飴サワーに舌鼓を打つ。
基本的にこの世界には機械が存在しないため、どうやって涼しく過ごすかは毎年の課題らしい。
「夜は少し涼しくなるからいいけどさ、昼はもうオイラ茹で猫になっちまうよ」
「ツガはこの暑さで良く働くわねえ」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 23:51:15.60 ID:8zDgO31t0
店にはお客が一人残っているだけで、他には誰も居なかった。
時間はまだ早かったが、今日の店じまいは早そうだ。
「しかし見事なつくりだ…… 型は誰が?」
「それがよく分かんねえのじゃ。お前さんなら何か分かると思ったが」
話が盛り上がっていたのは、そのお客さんが持ってきた一つの楽器のせいだ。
「壊れたハープ……か。技巧を凝らして作っている割には弦が足りない」
「その張ってない弦のところに、意味不明な紋様が刻まれているのじゃな。そのまま弾いても音は出るけんど、安っぽいというか。とてもそんな作品を作れる職人の技とは思えんのじゃよ」
「んー難しいですね…… しばらくウチでお預かりしても?」
「ああ、そりゃ楽器も喜ぶでな、宜しく頼む。 じゃ、ワシはそろそろ帰るとするじゃよ」
「また来てくださいね」
「あいあい」
お客さんが帰った後、皆でそのハープをまじまじと見た。
元々ハープなど見た事はなかったがなるほど、不思議な色をしている。
「外側もすごいが弦もすごい……セレスト樹をくりぬいて、そこに水霧蜘蛛の糸が張ってある……」
「ねえねえ、それ貴重なのん?」
「機長どころの話じゃないよ……どれも神話の一歩手前みたいな素材だ」
「あらん」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/18(月) 01:02:21.37 ID:hlwBqfsO0
「高く売れてしまうんじゃないの?」
「お客さんからの預かりものだぞっ 売れるわけないだろ」
でも何で弦が張ってない箇所があるんだろう?
ツガはしきりに首を捻る。
「タップリんとこなら分かるんじゃないのか?」
「ここ来る前に寄ったけどダメだったってよ」
「んんーっ 不思議文学者でも読めないのかぁ」
見せてもらうと確かに何かの文字のようだが、とても読めないな。
むしろ、この楽器に関する読める文献を探したほうがよさそうだ。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/19(火) 13:15:47.19 ID:n9KNO+MTO
「波っぽいね」
「え?」
「ホラ、ここの文字」
ゴボウが指差している所には、なるほど、波の様な模様が続けて三つ描かれている。
見かたによっては波にも見えるかもしれない。
「随分古い型だからなあ、たまった汚れや、掠れて見えない文字もあるかもね」
「ま、明日また調べてみようか」
「フルイカタ……」
ヒヤムギは呟いてにっこりと笑った。
「汚れているなら洗えばいいじゃないの」
「あっ」
「こら、返せヒヤムギ」
「こーいう不届きモノは水でじゃばじゃばやっちまえばいいのさっ」
「ああっ馬鹿っ大切なお客さんのっ」
「きれーにきれーにちまちょうねえ」
止める間もなく洗い場にハープを置いて、デブ猫は栓を思い切り捻った。
勢いよく出た水が容赦なくハープに叩きつける。
「こらこらこらこら!」
「どーも」
ツガが拳骨を喰らわせてから水を止めるまで、ヒヤムギはずっとニコニコしていた。
ゴボウはそばでカズダンスみたいなのを踊っていた。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/19(火) 13:21:21.90 ID:3YEaPLP/O
「きれーになったわよん」
「あ、何てことを……」
取り出したハープはびしょ濡れだ。
水が滴るそれには、何故か全ての箇所に弦が張ってあった。
「あ、弦が!」
「どういう事?」
水で出来た弦が、細いガラスの髪の毛のようにそこに横たわっている。
キラキラと店の灯りに反射して、突然ぱっと弾けてなくなってしまった。
「ああ……消えちゃった……」
「水につければ弦を張るのか?」
「いや、多分やり方が違うんだ。正しいやり方でやれば、弦は消えない」
「ねえ、ほめてほめて」
「何が褒めてだ。一歩間違えたら壊れてたかもしれないのに」
「うふふ」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/19(火) 13:27:59.03 ID:3YEaPLP/O
翌日。
「あったぞっ そのハープの事が書いてある古文書!」
「わおうっ でかしたツガ!」
古本屋を回っていたツガが息せき切って帰ってきた。
手には古びた羊皮紙をひもでまとめた、メモ帳の様なもの。
「どうやらヒガノボル期の作品らしい…… 作品名は『海の見え方(キウリ作 since Hgn32~47)』」
「キュウリは野菜だぞ」
「キウリ。 すごい素材で不思議な楽器を作ってた偉人らしい」
朝ごはんを食べ終えたヒヤムギもやってきて覗きこむ。
「ねえねえ、使い方は?」
「それが、海に浸けるとしか……」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/19(火) 14:11:00.49 ID:g3MbJRO9o
室内で水とはなんということを
ところで猫は大好きらしいね。キウイ
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/19(火) 14:21:44.97 ID:TX3vg5ylO
「海に浸ける……?」
「どうもね、楽器なんだけど音を出すために使うものじゃないらしいんだ」
「意味がお休みです」
「ツガ、とりあえず海行こうぜ!」
「店どうすんだ」
「閉めればいいのよう、どうせ閑古鳥なのよ」
「お前らの生活にも関わってんのに、気楽なもんだな」
そう言いながらもツガは表の看板をひっくり返す。
こういう優しい一面がある辺り、この店はまだまだゴボウとヒヤムギの天下だ。
「すれでは早速いくのじゃ!」
「うさぎ海だな。駅まで歩いていこう」
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません