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終電を寝過ごしたら不思議な場所についた

2019年11月15日

19以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 11:39:20.78 ID:8zDgO31t0

『月光タンポポ』

翌日。

起きてリビングに行くと二人と一匹が暴れていた。

この『ねんねこ』は一階がバー兼リビング、二階が寝室等の生活空間になっていて、下に降りるときは大黒柱から突き出した階段を使う。

「んにゃはははっ、ツガぁアその綿毛くれーーーっ!」

「楽しいのよう、面白いのよう」

「お前ら、毎年の事だがこれ猫じゃらしじゃないぞ!」

綿毛になった月光タンポポが四本、ツガの手に握られている。

猫たちが眼を輝かせて追っているのはそれだ。

「にゃーーーーん」

「にゃああああん!」

「やめろって綿毛が散る!!」

もしかして楽しい事ってこれか?

20以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 11:53:29.98 ID:8zDgO31t0
「全く、今年のハルワタリで使えなくなるとこだったぞ」

「どーも」

結局騒動は、二匹の頭にたんこぶを二つくっつけて終わった。

角度の違うお辞儀で謝罪する。

「おはようニニ、朝ごはん出来てるぞ」

「おはようツガ。タンポポちゃんと綿毛になってるな」

「オレが取ってきたのだから当然よ、オホホホ」

朝食を食べながら、「ハルワタリ」という謎の単語について聞いた。

「ハルワタリってのはこの辺であるオマツリの事だよ。店とかもたくさん出るんだけど、その綿毛使って飛ぶのがメインだな」

「飛ぶ?」

「まあまあ、楽しみにしておきなさい、オッホホ」

「今年こそオイラが飛ぶのだぜ、ニャハハハ!」

またはぐらかされた。

「夜になったらツンガリ森に行こう」

22以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 18:35:40.91 ID:8zDgO31t0
夜。

「ドングリまんじゅう安いよっ」

「はぁー夜のおともにトマトソーダ割はいかが」

賑やかだなぁ。

一体どこにこんなに住んでいたのか、と思うくらいに人や猫や動物で溢れかえっている。

でっかい葉っぱとつっかえの棒で簡単なテントを作って、誰もかれも、忙しそうにモノを売って声を張り上げている。

通りすがりに見た「火山おむすび」にちょっと惹かれた。

「多分狐尾っぽのへんからも店が来てるんじゃないかな。ホラ、あれとか」

ツガの指さす先には、『割って割れないコンコン卵酒』。

頭に鉢巻をした頑固そうな狐と、息子さんだろう、小さい子狐が店の外で精一杯声を張っていた。

様子が愛らしくて、思わず声をかける。

「やあキミ、一杯くれんかね」

「あ、オイラも飲む!」

「ヒヤムギも」

「何だ、皆飲むのか。 四杯くださいな」

23以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 18:39:02.55 ID:8zDgO31t0

「あんがとなっし、一杯銅貨三枚だよ! オヤジ、卵酒四丁!」

「あいよう! あんがとなっし!」

親父さんは店の冷蔵庫を開けると、中から卵を4つ取り出し、ピックのようなもので天辺に孔を開けてから渡してくれた。

その後で、ストローのような植物の茎。

「突っ込んで飲むんだよ」

「生卵を?」

「ははは、卵酒なんだから大丈夫」

横を見ればゴボウとヒヤムギはもうちゅうちゅうとやっていた。

真似をして啜ってみる。

「おおっ、ほんのり甘くてうまいぞこれ!」

「あの店のお酒、結構有名なんだよ」

不思議な甘さだ。

何にも混じりけがないような、透き通った味。

「ところで『割って割れない』って何なんだ?」

「ジャバラ卵は恐ろしく固くて、天辺のほんの少しのとこ以外は内側からしか開けられないんだよ」

24以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 19:28:04.98 ID:8zDgO31t0
「あらん、もうなくなったわあ」

「ヒヤムギの食欲には参るな」

「俺の、まだあるけど飲む?」

「きゃん、あんがとあんがとニニさまさま」

俺が差し出した残りもぺろりだ。

ヒヤムギは舌なめずりをしながら、また食い物屋屋台の物色を始めた。

「さあ、そろそろじゃないかな?」

「何が?」

「ハルワタリ」

26以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 22:15:01.55 ID:XIW4inl+o

不思議な雰囲気だ

25以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 21:19:01.21 ID:8zDgO31t0
屋台も慌てて閉める準備を始め、辺りは月光タンポポを持った人であふれた。

さっきの子狐も居る。

「ホラ、月光タンポポを見てごらん」

「うっ!」

それは燦然と輝いていた。

朝や昼とは比べ物にならないほど眩しい。

「月光タンポポは三日月の光を浴びて輝くんだ。地面に突き刺して」

地面に刺すとタンポポの茎はどくどく脈打ち、綿毛を膨らませてゆく。

「地面が吸収していた光を吸うんだよ。それで大きくなるんだ」

「へえ」

こんな植物は元の世界にはない。

こんな魅力的な性質は。

「さあ、始まるぞ」

「にゃん、オイラのタンポポが一番飛ぶのだ!」

「おっほほ、今年こそいただきよう」

「デブには無理さ」

「ほほほ、重さは関係ないでよ」

《皆さまお待たせしました、只今よりハルワタリを始めます! 茎に掴まって!》

27以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 22:26:50.37 ID:8zDgO31t0
一陣の風が吹いた。

「おっ」

「にゃっ」

「ほほ!」

「来たぜ」

ふわりと浮いた。

根元でふつりと切れた茎は、確かに俺の重さを感じていないようで、規則的な速度を持ったまま宙へ、いや月へ向かって真っすぐに昇っていく。

「渡るのよう、お月さんに向かっていくのよう」

「あれ、ヒヤムギの速度落ちてない?」

「冗談じゃないわっ、コラタンポポ、もーっと昇れェ!」

そうか、ハルワタリ。

今俺たちは贅沢なほど月光を浴びて、冬から春に渡っていく。

皆の乗った綿毛はさらさらと種をまきながら高く高く、中空に銀河を作った。

「おおっ、ニニのが随分上っているわよう!」

「ほう、こりゃ今年の一番はニニが取るかもなあ」

俺の乗った綿毛は一段と高く上った。

風の向くままにタンポポは浮き、またひとつ月に近づいた。

「こりゃ絶景だな」

見上げればはるか天高く、大きな大きな星のタンポポが煌めいていた。

――『月光タンポポ』【完】

33以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/18(月) 02:34:08.21 ID:EMdhWH8Io

素人意見だけど宮沢賢治っぼい

34以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/18(月) 07:24:01.21 ID:GefSjfkPO

なかなか面白いな

29以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 22:44:41.49 ID:8zDgO31t0
『海を見るには』

「あぢぃのじゃああ」

「ヒヤムギ止めて、余計暑くなる」

「ホラ皆、休憩で飴サワーでも」

「オイラ三杯くらい欲しい……」

「そんなに飲んだら汗が止まらなくなるぞ」

夏、夜。

ハルワタリから一月経ったくらいでもう、外では蝉が鳴き出していた。

『ねんねこ』の支柱である木も外観が変わって、店の中にまで青々とした葉が侵入していた。

葉っぱを少しちぎって絞るとライム果汁の様な液が出るので、お酒に入れて利用している。

「んめっ!」

飴サワーに舌鼓を打つ。

基本的にこの世界には機械が存在しないため、どうやって涼しく過ごすかは毎年の課題らしい。

「夜は少し涼しくなるからいいけどさ、昼はもうオイラ茹で猫になっちまうよ」

「ツガはこの暑さで良く働くわねえ」

30以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 23:51:15.60 ID:8zDgO31t0
店にはお客が一人残っているだけで、他には誰も居なかった。

時間はまだ早かったが、今日の店じまいは早そうだ。

「しかし見事なつくりだ…… 型は誰が?」

「それがよく分かんねえのじゃ。お前さんなら何か分かると思ったが」

話が盛り上がっていたのは、そのお客さんが持ってきた一つの楽器のせいだ。

「壊れたハープ……か。技巧を凝らして作っている割には弦が足りない」

「その張ってない弦のところに、意味不明な紋様が刻まれているのじゃな。そのまま弾いても音は出るけんど、安っぽいというか。とてもそんな作品を作れる職人の技とは思えんのじゃよ」

「んー難しいですね…… しばらくウチでお預かりしても?」

「ああ、そりゃ楽器も喜ぶでな、宜しく頼む。 じゃ、ワシはそろそろ帰るとするじゃよ」

「また来てくださいね」

「あいあい」

お客さんが帰った後、皆でそのハープをまじまじと見た。

元々ハープなど見た事はなかったがなるほど、不思議な色をしている。

「外側もすごいが弦もすごい……セレスト樹をくりぬいて、そこに水霧蜘蛛の糸が張ってある……」

「ねえねえ、それ貴重なのん?」

「機長どころの話じゃないよ……どれも神話の一歩手前みたいな素材だ」

「あらん」

31以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/18(月) 01:02:21.37 ID:hlwBqfsO0
「高く売れてしまうんじゃないの?」

「お客さんからの預かりものだぞっ 売れるわけないだろ」

でも何で弦が張ってない箇所があるんだろう?

ツガはしきりに首を捻る。

「タップリんとこなら分かるんじゃないのか?」

「ここ来る前に寄ったけどダメだったってよ」

「んんーっ 不思議文学者でも読めないのかぁ」

見せてもらうと確かに何かの文字のようだが、とても読めないな。

むしろ、この楽器に関する読める文献を探したほうがよさそうだ。

36以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/19(火) 13:15:47.19 ID:n9KNO+MTO
「波っぽいね」

「え?」

「ホラ、ここの文字」

ゴボウが指差している所には、なるほど、波の様な模様が続けて三つ描かれている。

見かたによっては波にも見えるかもしれない。

「随分古い型だからなあ、たまった汚れや、掠れて見えない文字もあるかもね」

「ま、明日また調べてみようか」

「フルイカタ……」

ヒヤムギは呟いてにっこりと笑った。

「汚れているなら洗えばいいじゃないの」

「あっ」

「こら、返せヒヤムギ」

「こーいう不届きモノは水でじゃばじゃばやっちまえばいいのさっ」

「ああっ馬鹿っ大切なお客さんのっ」

「きれーにきれーにちまちょうねえ」

止める間もなく洗い場にハープを置いて、デブ猫は栓を思い切り捻った。

勢いよく出た水が容赦なくハープに叩きつける。

「こらこらこらこら!」

「どーも」

ツガが拳骨を喰らわせてから水を止めるまで、ヒヤムギはずっとニコニコしていた。

ゴボウはそばでカズダンスみたいなのを踊っていた。

37以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/19(火) 13:21:21.90 ID:3YEaPLP/O
「きれーになったわよん」

「あ、何てことを……」

取り出したハープはびしょ濡れだ。

水が滴るそれには、何故か全ての箇所に弦が張ってあった。

「あ、弦が!」

「どういう事?」

水で出来た弦が、細いガラスの髪の毛のようにそこに横たわっている。

キラキラと店の灯りに反射して、突然ぱっと弾けてなくなってしまった。

「ああ……消えちゃった……」

「水につければ弦を張るのか?」

「いや、多分やり方が違うんだ。正しいやり方でやれば、弦は消えない」

「ねえ、ほめてほめて」

「何が褒めてだ。一歩間違えたら壊れてたかもしれないのに」

「うふふ」

38以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/19(火) 13:27:59.03 ID:3YEaPLP/O
翌日。

「あったぞっ そのハープの事が書いてある古文書!」

「わおうっ でかしたツガ!」

古本屋を回っていたツガが息せき切って帰ってきた。

手には古びた羊皮紙をひもでまとめた、メモ帳の様なもの。

「どうやらヒガノボル期の作品らしい…… 作品名は『海の見え方(キウリ作 since Hgn32~47)』」

「キュウリは野菜だぞ」

「キウリ。 すごい素材で不思議な楽器を作ってた偉人らしい」

朝ごはんを食べ終えたヒヤムギもやってきて覗きこむ。

「ねえねえ、使い方は?」

「それが、海に浸けるとしか……」

39以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/19(火) 14:11:00.49 ID:g3MbJRO9o

室内で水とはなんということを
ところで猫は大好きらしいね。キウイ

40以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/19(火) 14:21:44.97 ID:TX3vg5ylO
「海に浸ける……?」

「どうもね、楽器なんだけど音を出すために使うものじゃないらしいんだ」

「意味がお休みです」

「ツガ、とりあえず海行こうぜ!」

「店どうすんだ」

「閉めればいいのよう、どうせ閑古鳥なのよ」

「お前らの生活にも関わってんのに、気楽なもんだな」

そう言いながらもツガは表の看板をひっくり返す。

こういう優しい一面がある辺り、この店はまだまだゴボウとヒヤムギの天下だ。

「すれでは早速いくのじゃ!」

「うさぎ海だな。駅まで歩いていこう」

SS, 名作

Posted by wpmaster