終電を寝過ごしたら不思議な場所についた
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/14(日) 14:54:32.09 ID:aFxPq/1Do
俺も甘噛みされたい
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/14(日) 14:56:21.14 ID:zhnrLGwLo
ニニが噛まれんのかいっ!
がぶがぶかわいい
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/14(日) 15:09:42.88 ID:cGHOx4Jm0
「わざわざ届けてもらってあんがとなっし、『ねんねこ』だったら娘に取りに行かせましたのに」
「いえいえ、構いませんよ。それに、キウリの意匠を汲む楽器術なんてそうそう見れるものではありませんからね。職場にお邪魔させていただいて、お礼を言いたいのはこっちの方です」
「やはあ、そう言われると恥ずかしいでな。こんなむさい作業場で良かったらいくらでも見ていっておくんなっせ」
ツガはアズキ先生の案内のもと、所狭しと置いてある楽器を見て回ることになった。
俺もついていきたいが、腰が、もとい尻が重い。
「それにしても見事なつくりをしている…… 猫目玉石にプランタとベッコウ鉱を接続して、薄氷ガラスで覆ってるのか」
「はあーっツガさんはどっかで楽器術を嗜んでおられたのけ? 素人目には分からん素材ばっかのはずじゃが」
「はい、昔少しだけ……」
俺も見たいなあ、なんて考えていると尻に軽く痛みが走る。
「ニニ……お父のとこ行くん?」
行きづらい……
「ナヅナの楽器見て」
「え?」
にっこり笑うその手には、音の雫。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/14(日) 15:16:14.43 ID:cGHOx4Jm0
「これ、ナヅナ作ったのら。初めて楽器作ったのら」
「えええ!」
流石に少し驚く。
自然石でないとはいえ、金貨八枚の値がつく代物。
中身は半透明にうっすらと見えるが、中々に複雑な構造をしていることは確かだ。
それを、この子が。
嘘を言っているようにも見えない。
「ナヅナも楽器作れるのら。お父の楽器もすごいけどナヅナのもすごいのら」
「……そうなんだ、すごいなあナヅナちゃんは」
「ふへへへ、くすぐったいのら。がぶがぶ」
頭を撫でるとうれしそうに目を細める。
尻をかぶるのは照れ隠しだろう。
まだまだ子供なんだと思うと、余計に愛おしく感じてくる。
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/14(日) 19:43:58.14 ID:aFxPq/1Do
ナヅナちゃんかわいい
お持ち帰りしたい
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/15(月) 02:53:45.62 ID:yfz/U0mx0
「あの子は天才なのですじゃ」
アヅキはツガにそう漏らした。
「音の雫はあんな年端もいかぬような子供が、いや熟練の楽器術師でさえ考えもつかぬ構造をしているんでご。ツガさんなら分かるとは思うじゃすが」
「……普通は、『落とすと綺麗な音の鳴る宝石』で終わるでしょうね」
「その通りですじゃ」
アヅキは一つの楽器を手に取った。
出した音が空中に文字を描く、ピアノの一種。
音色で文字の色を、音量で線の太さを調節できる。
「あの子の楽器はキウリの作によく似ている。彼の楽器は『単純に音を出す道具ではない』とする楽器術の根底と、『ひたすらに清廉な音を』という楽器そのものの根底とを結びつけているのじゃす」
「その作品は……」
「アヅキの『鳴るキャンバス』。ただの駄作じゃよ」
ピアノを乱暴に弾くと、空中に茶色の様な、赤系が混ざった色がべったりと張り付いた。
「こんなものは楽器でなくとも良いのじゃ。空に絵をかくペンだってなんだって」
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/15(月) 03:08:47.32 ID:yfz/U0mx0
「ツガさんは以前『海の見え方』に触れていますのじゃな?」
「ええ」
「あの作品は楽器、それもハープの様な弦楽器でないと成り立たねえつくりをしてるでご。水で弦を張り、塩でそれを固定。一度弾けば海の中から世界を見ることが出来る」
「『海』や『ハープ』でないと成り立たない、強烈な世界観」
「そこじゃす。『他では代わりがきかない』絶対的な世界を、音楽と自然で構築するという事を、キウリはやってのけたのじゃす」
「そしてそれは今、あの子がしていることでご」
ここにある数多の楽器の中で、一体どれだけが、かけがえのない楽器術作品として存在できているだろうか。
アヅキは技術的には楽器術師の中でも相当なものを持っている。
しかし、それはあくまでキウリの築いてきたものの模倣であり、そこに独創はない。
「ワスの家の家系図じゃす」
彼は壁に掛けてある布を指さした。
「一番上がキウリ、その下のムジナ氏がキウリの直弟子に当たる我がご先祖様じゃす」
「キウリと、その他にも…… 名前にバツ印がつけられている人がいますね」
アヅキは悲しそうに目を伏せた。
「彼らは、天才故の孤独に耐えきれなくなった者達じゃすよ」
「自殺者、という事ですか」
「ナザレ・キウリ。享年15歳。彼は特に若くして亡くなっていますのじゃ」
『海の見え方』を調べていた時の事を思い出す。
確かに違和感はあった。
「天才とはそういうものだと、最近思うようになったでご。誰よりも突き抜けた才能がある分、誰もが持っているものに欠けやすい」
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/15(月) 03:18:21.20 ID:yfz/U0mx0
そうか、この人は彼らに娘さんを重ねているのか。
あの歳で『音の雫』は天才どころか異才だ。
技術的な部分でアヅキ氏が手伝ってこそだが、あと何年もすれば完全に超えてしまうだろう。
「ツガさん、これも何かの縁じゃ。どうぞあの子と仲良うしたって下さいな」
「はい。お願いされなくとも、俺からも友達になって欲しい」
あの子を見ていると心が躍る。
親から見ると余計に心配になるのだろうな。
誰よりも優れていてほしいと思う反面、皆と同じであって欲しいと思うのもまた親心。
そのジレンマは決して、汚れたものではないのだ。
「ありがとう、ありがとうツガさん」
「いえ、その、……」
だがこうも恐縮されては。
思わず苦笑してしまう。
当のナヅナちゃんは何も考えていないだろうな。
あの子は俺なんていなくても、きっといい友達にたくさん恵まれるはずだ。
何故だかそんな気がした。
少なくとも初対面の人のお尻にかぶりつけるようであれば、将来の心配は要らないな。
思わず吹き出すと、表の方で呼ぶ声がした。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/15(月) 03:24:53.50 ID:yfz/U0mx0
「おおい、音の雫使ってみるから、皆で見ようぜー!」
ニニだ。
声に反応して、ずっと俺の手を握っていたアヅキ氏と目があった。
ふと冷静になってお互いに苦笑する。
「分かった、今行く!」
「さあ、お父さんも一緒に」
「そうじゃすな。あの子の楽器のお披露目と行きましょうがいな」
表に戻ると皆外に出ていて、ナヅナちゃんの手に握られた音の雫を見ていた。
手の中で宝石は、さっきより小さい。
「あ、おかえりなのら。今から鳴らすからよく聞いてるのら」
宝石は氷が解けるように少しずつ小さくなっていって、最後には蒸発して空へ消えた。
「くるぞ」
ぽつり。
【♪】
肌に小さな『音』が当たるのを感じた。
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/15(月) 04:58:14.14 ID:yfz/U0mx0
天から降り注いできたのは文字通り音の雫。
今度はピアノの音だけじゃなくて、別の楽器や、楽器じゃないモノの音や、喧噪や、雑踏や、無音。
全てが降り注いで、音楽の滝を作っていた。
混ざり合うそれらは決して不快ではなくて、まさに音楽と呼ぶべきものへと昇華していた。
「これは本当にすごい」
「一年に一回しか鳴らせないのが難点なのら」
手を翳せば音が落ちてきて弾け、次々に溜まっていく。
そうか、これは『雨』か。
キウリが海と融合したように、音の雫は雨との融合を形作っている。
音は雨になって、乱雑に、繊細なメロディーを奏でた。
全身が鼓膜になったようにびりびりと震えた。
何とも心地よい。
「ねえツガ」
「何?」
「ナヅナの楽器もすごいのら!」
そう言ってほほ笑む彼女は、天使のように無邪気だった。
この子ならきっと大丈夫。
「そうだな、すごいな」
「にひひひ、くすぐったいのら!」
だから今は、この音のように燦然と降り注ぐ愛情を、お腹いっぱい食べて欲しい。
自然も親も友達も、きっと彼女を愛してくれる。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/15(月) 05:03:41.97 ID:cFM80zYuo
おお降ってくるのか……こりゃすごい
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/15(月) 05:08:33.94 ID:yfz/U0mx0
「にゃはは、大漁じゃっ 大漁なのじゃっ」
「ぷりエビ買ってきたわよう」
不思議な満足感に浸っていると、俗世に塗れた奴らが帰ってきた。
というか今までどこかに行っていたのにも気づかなかった。
「あらん、何だかうるさいわねえ」
「耳をお休みにします」
「それはいい」
ボウルたっぷりのぷりエビを抱えて二匹はご満悦だ。
耳をぺったりと頭にはりつけて、むちゃむちゃとぷりエビを喰いだした。
ニニはすっかり呆れ顔。
アヅキ氏も口をあんぐりと開けていた。
「猫になんとやら、か」
向こうの世界の諺を思い出した。
一年後、また音の雫が結晶化した時に、ここにまた来よう。
そして今度は、猫どもは置いてこようと思った。
上を見れば音の雨に混じって、綺麗な光が差し込んできた。
ぷりエビよりこっちの方が良くなるまで、あと何年かかるだろう。
「ナヅナにもぷりエビ寄越すのら!」
「あーっ こぼれるこぼれる!」
「ゴボウ! 取り押さえるのじゃ!」
この素敵な楽器を作った張本人にさえ、それは分からない。
――――§6『ヒヤムギに芸術』【完】
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/15(月) 05:28:13.28 ID:cFM80zYuo
猫に小判、花より団子かw
がぶがぶされてしまえー乙
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/15(月) 08:12:16.89 ID:v0OX7/ecO
いやいやむしろこのくらいの気持ちでいた方が孤独にはならないんじゃないのか?ww
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/15(月) 08:13:43.63 ID:ooJW4VyAO
美しい………
よかった。音の雫に奴らのゲップや屁の音が混じらなくて本当によかった。
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/15(月) 11:43:56.35 ID:yfz/U0mx0
§7『ツガの秘密、ぼるに』
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/16(火) 19:20:12.38 ID:mgnkvK+40
その日大雪が降って、外の景色は全て白に隠されてしまった。
砂糖菓子みたいな樹氷が立ち並ぶ中を、二匹を連れて外に出た。
ツガは調べ物があるとかで書斎にこもっていた。
しばらくは冷たい雪原に飛び込んだり、肉球の足跡をつけたりと楽しんでいた二匹だったが、顔を見合わせると突然せこせこと雪玉を作り始めた。
マズい流れだ。
一人だけ標的にされまいと、大きな木の陰に身をひそめる。
「あれ?ニニどこいった?」
「せっかく雪玉拵えたのにィ 当てる奴がいないと意味ないのよう」
そら見た事か。
あの悪戯猫たちの考えてることなんてすぐに分かる。
でもそれってつまり、俺があの二匹と同じレベルになっちまったって事なのだろうか。
そう思うと複雑な気分だ。
「仕方ない、ニニはどっかに消えた事だし」
「オイラたちだけでやりますか」
「掛け金は?」
「銀貨3枚」
「勝敗は?」
「決まってるにゃろ」
「「雪に倒れた方の負け!」」
そして凄まじい雪合戦が始まった。
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