終電を寝過ごしたら不思議な場所についた
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/06(土) 15:31:43.28 ID:jCo6EB3pO
果たして同じなのはニニとツガだけだったのだろうか
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/07(日) 06:31:45.76 ID:oTLBXRqbo
なかなかに転換点だ
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/07(日) 17:19:03.40 ID:x6uUYver0
「ノスタルジアはニニが持っていていいよ。俺じゃあうまく扱えないから」
故郷がないから郷愁の念が湧かないのだろう。
ツガは目を伏せた。
「この箱はどこで手に入れたんだ?」
「先代がくれたんだ。何か思い出すことがあるかもしれない、って」
「そうか……」
さあ戻ろう、とツガは促した。
ヒヤムギとゴボウに余計な心配をかけるのはよくない。
俺は静かに目を閉じた。
『ねんねこ』はいい隠れ蓑になる。
先ほどのツガの言葉だ。
本当にそうだろうか。
ゴボウやヒヤムギだってもう、ツガにとっては大切な一部のはずだ。
あんなに軽々しく切り捨てるのは、余程神経がつっぱっているか、あるいは。
無理してるように見える。
「『もう少しここに居たい』」
「そう」
パリン、と音がして景色が割れる。
仮想現実のような空間だったらしく、夜空の破片が散ると同時に、自分が地面に立っていることに気づかされる。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/08(月) 21:14:31.11 ID:5tI89MFt0
「どこ行ってたのよう!もう楽器の片づけ終わっちゃったわよん」
当然のように見慣れた『ねんねこ』が目に入ってくる。
中に戻るとヒヤムギとゴボウは随分疲れた様子で、勝手に飴サワーを作って飲んでいた。
「ごめんごめん、全部任せちゃって。お詫びに倉庫のびわゼリー食べていいからさ」
「びわゼリー!」
「びわわっ! ゴボウ、早速取ってくるのじゃ!!」
二匹よりもツガの方が疲れているように見るのは、単に気のせいだろうか。
椅子にぐったりと身体を預ける様子は初めて見る。
とうきびサワーが欲しくなったのでツガにも要るか聞いて、二杯分用意した。
「ありがとうニニ」
「どーも」
「ふう、うまい」
「ツガが作った奴ほどじゃないけどな」
「あんま変わんないって」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/08(月) 21:21:58.01 ID:5tI89MFt0
「んにゅははっ、びわゼリーじゃっ ゼリー祭りじゃっ」
「んめっ!」
倉庫からでっかいボウルを抱えて戻ってきた二匹の手は既にゼリーだらけでべたべたしていた。
既に半分くらいなくなっている。
倉庫って店の裏だから戻ってくるのに一分かからないはずなんだが。
食欲とはかくも恐ろしい。
「くらえっ!」
「うっ 種飛ばしとは卑怯なり!」
じゃれている二匹を見るのは楽しい。
時たま飛んでくる流れ弾がなければなお良いんだが。
「!」
ふとツガを見ると寂しそうな微笑みを浮かべて二匹を眺めていた。
彼は何を考えているのだろう。
俺は何を考えるべきなんだろう。
心に浮かんだ安っぽい同情を、炭酸に溶かして飲み下す。
これから俺は、同情とか憐みとか同郷の志だとか、そんなのを一切抜きにして、彼の為に何が出来るだろうか。
ポケットに入ったノスタルジアを、今更ながらに大切に感じた。
――――『ツガの秘密、ぼるいち』【完】
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/08(月) 21:42:26.40 ID:5tI89MFt0
§6『ヒヤムギに芸術』
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/09(火) 17:30:39.31 ID:6kGr3w190
「にゅふふふ」
「あーっヒヤムギ 何だそれ?」
「にゅふふ、不思議な宝石よん」
『ねんねこ』の裏にある小高い丘の上。
悪戯猫二匹のアジトとも言えるこの場所で、ヒヤムギが何か見つけたようだ。
「キラキラ光って綺麗だな」
「それだけじゃないのさ」
スーパーボールくらいの球をそっとつまんで地面に落とす。
球は地面に当たる瞬間、ピアノの美しい旋律を奏でた。
「へえーっ」
「いいでしょ?」
「うん、いいな」
「これは」
「間違いなく」
「高く」
「売れるにゃん」
「「にゅあ――――っはっはっはっは!!!」」
彼らには基本的に金目のものが食材に見える。
『ねんねこ』で舌の肥えた彼らは、神がかり的な意地汚い眼を持っていた。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/09(火) 21:28:50.33 ID:euEN7EfKo
大事にとっておかないのかよぉ!
流石すぎて涙が出そうです
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/10(水) 03:27:56.11 ID:gGht8zM0o
こいつら本当ブレねえなw
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/10(水) 16:35:13.21 ID:tai3XqSr0
「なあツガ、表に紙挟まってたんだけど」
「え、郵便?」
「違う違う、なんか落し物を探してほしい、みたいなことが書いてある」
「見せて」
『音の雫を探しているのら。
探してほしいのら。
音が出るのら。落ちたら。落としても?
キラキラ光って綺麗なのら。
綺麗な上に落ちたら音が出るからすごいなあって思ったのら。
うちにいっぱいあるのら。一個なくしたのら。
見つけた人は金貨5枚出すのら。
見つけれなかったら噛むのら。
がぶがぶ。
ツンガリ森の西の方 一本松から右に二歩 【ナヅナ】』
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/11(木) 04:21:52.57 ID:KRIt6fMEo
届けに行かないと、がぶがぶされちゃう
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/12(金) 01:40:08.65 ID:/gHHOQcAO
噛まれても痛くなくて気持ちよさそう
がぶがぶ
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/12(金) 18:09:32.50 ID:t0qNR9uR0
「……これ他の家にも配ってあんのか…… 音の雫なんて聞いたことないが」
「このナヅナって差出人は知ってるのか?」
ナズナじゃないんだ。
「ああ、ツンガリの西に住んでるオオカミの女の子。お父さんの先祖がキウリの直系弟子」
「え?! あのハープの?」
「そう、こないだキウリについてもついでだから調べててさ。確かに変わった人だなーとは思ってたんだけど、びっくりだったよ」
「変わった人……ね」
がぶがぶ。
娘の文章からも独特の感性がにじみ出ている。
「んで、どうする?探す?」
「そういうのはゴボウとヒヤムギの方が得意だな。店は今日俺とニニだけでやって、あいつらには音の雫を探してもらおう。 多分裏の丘に居るから、ニニ伝えてきて」
「オッケー」
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/12(金) 18:18:53.51 ID:t0qNR9uR0
「……って訳なんだけど、どっかで見たりしてない?」
「「してない」」
「そうか」
二匹は驚くほど息の合った回答をしてくれた。
何を考えてるのか全然わからんが、このコンビならあっという間に見つけ出してしまいそうだ。
賞金の金貨5枚についても伝えてるし、エサは十分与えただろう。
とりあえず店の事もあるので、後は二匹に任せて戻ることにした。
「じゃ、頑張ってくれな」
「「はーい」」
「金貨5枚ですかあヒヤムギさん」
「少々安いのではありませんかゴボウさん」
「ぷりエビ30匹程度のお駄賃で、音の雫を拾った功績に釣り合うとは思えませんぞ」
「まっことその通り。 それにゴボウさん、既に鑑定屋に持っていって、この変な宝石に金貨8枚の価値がある事は分かっておりまする」
「全く持って同感です。だとすれば我々が取るべき手段はただ一つ」
「そうですとも」
「「賞金の値上がりを待つ」」
「「にゅううああああーーーーーーっっはっはっはっはあ!!!」」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/13(土) 11:59:36.06 ID:yUu1meC1o
安定のこいつらw
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/13(土) 13:16:33.55 ID:TAum0KS4O
こいつらww
まあ持ち主に返そうと思うだけまだマシか
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/14(日) 14:20:35.37 ID:cGHOx4Jm0
「どーも」
「ぷりーっ」
「見つけてくれてどうもありがとうなのら。がぶがぶ」
まあこいつらの考える事なんか所詮はそんなところなので、隠れて待機していたツガと二人で一網打尽にしてやった。
金貨5枚を握りしめてヒヤムギは悲しそうだった。
「音の雫…… 本当に綺麗な音を出すよなあ」
「一年に一回、その辺に溜まった音がまとめて結晶化するのら。がぶがぶ」
そしてこの子はいつまで俺の尻にかぶりついてんだろう。
目が合うとにっこり微笑んでくれるので無理やり剥がすのは良心が痛む。
「ナヅナおめ、いくら気に入ったからってお客さんに甘噛みするもんでねえど」
「ニニはいい匂いがするのら」
「すんませんなあ、まだほんのてんつぶ(方言で小さい子)でごって。甘噛みは親愛の証でもって、気にしないでおくんなせえ」
「んがぶっ!」
「これナヅナ!」
灰色の毛並みを持つお父さんは頭をポリポリと掻いた。
キウリ系列の楽器術家で、名をアヅキという。
アズキじゃない。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません