もうすぐ海外に売られる予定
痴女系は、SMよりも難しかった。
そこも全裸になることはないけど、下着姿までは脱がないといけなかった。
いくつか用意されてるシチュエーションから選んだり、お客さんが脚本書いてきたりw
そこで演技っぽいことをしながら、イタズラしていくっていう感じ。
素股とかフェラとかはオプションでもなく、いかにうまく相手にその雰囲気を楽しんでもらうかという感じ。
最後はやっぱり手コキで終わる。
私が出来るサービスの限界だなぁ…
痴女系なので、けっこう年上の嬢が多い。
ソフトサービスだし、見た目もかなりレベルの高いお店だったと思う。
それまでのお店だと、セクキャバでもSMでも、入店すぐからそれなりの順位のキープができてた。
人が人を呼んで…みたいな感じで、一度人気があるってなると、それをキープするのは得意だったんだと思う。一人離れても、新規がすぐにつく。
ここでもなるべく早くそうなりたかった。
効率良く働きたいから。
顔出しみたいな馬鹿な事はしないけど、HPのグラビアにも力を入れてもらった。
入店してからしばらくは、新人期間で優先的にお客さんをつけてもらえる。
一度ついて、リピートしてくれる人、新人を狙ってくるお店の常連、グラビアで写真指名してくれる人、
色んなお客さんに毎日ついた。
そこのお店は、イメージプレイなだけあって、前後の流れを大事にする人が多い。
コースとしては、40~150分まであるんだけど、ほとんどの人が90分くらいだった。
そんな中で、グラビア指名で40分というお客さんがついたとスタッフに言われた。
前日からの予約だったと。
前日から予約するくせに40?珍しいなー。とは思った。
営業マンが息抜きに40で遊んで帰るとかは、よくあるんだけど、前日から…。
まあそんな人もいるだろうと、私は準備をして部屋に向かった。
少しして、部屋に入ってきたのは、
例のストーカーだった
ストーカーと対面した。
本当なら、スタッフに連絡すれば良かったんだけど、頭回らなかった。
まんまと部屋に入ってきて、襲い掛からんばかりにだきつこうとするのをなんとか制する
私「ちょ!なんで!」
男「見つけた…探してたんです…いきなりお店からいなくなるから…」
私「何を使って探したわけ?顔出ししてないんのに、わかるわけないでしょ?」
男「わかります、グラビアの体でわかりました。胸のラインも、腹筋も、お腹も…」
私「…いくらなんでも、体だけでそれは…」
男「あ、じゃあ!…運命…っていうか…」
絶句。本気でこんなやついるんだね…
警察に連絡することは考えた。
でも、そうなったらもうこのお店にはいられない。
通勤時間や、給料面の環境からしても、その時の私にとっては最高の場所だった。
失いたくなかった。
男は呑気に、このあとの延長の話をしてる。この日一日買い占めると。
もしここで追い返したら、また私を探し出して、今度は本当になにをするかわからないんじゃないだろうか。
もう、プライベートであんな思いはしたくない。
いつ母にバレるか、気が気じゃなかった。
ならいっそ、こいつの目に届くところにいた方が安全なんじゃないか。
このお店にいることがわかってれば、ここで会えることがわかってれば。
一晩たつとトリ消えるのか
私「ねえストーカーさん。私、あなたに名刺もらった事があるでしょ?その名刺、警察に提出したんですよ。ストーカーですって。」
男「ストーカー!?そんな。僕はただ、会いたかっただけで…勝手に会いにいったのは謝りますけど…」
私「だから。それがストーカーだっつてんでしょうが。犯罪者にはまともに喋っても理解できないみたいなので、事実だけ伝えますね。
私は、次にあなたに会ったとき、110番すればすぐに警察が来てくれると言われています。今、あなたが目の前にいます。私は携帯も持ってます。一瞬でも下手なことをすれば、現行犯です」
実際、風俗店内でそんなルールを適応してもらえるのかしらないけどねw
お店も止めるだろうから。
でも、こいつには十分だったみたいだった。
「それだけはやめてください。これからは絶対にあんなことはしませんから。お客さんとしてでいいので、ここに会いに来させてください」
狙い通り、こいつがそう言った。
それから、ストーカーは、お店でも有名になるぐらいの私の常連になった。
私にとってはストレスにでしかなかったけど、お店にとっては太客だ。
それを掴んでいる私も、お店にとっては安定した嬢という評価になった。
そこでも私は、安定して稼げるようになっていった。
これまで色んなお店でも働いてきたし、正直慣れはあった。
お客さんのタイプによって、自分のキャラも使い分けてた。
私自身の本当の性格は、正直自分ではよくわからなかった。
一人でいるときはぼーっと本を読んだり、映画見たりするのが好きだった。
自分以外の作品上の人物にのめり込む事が
多かった。
二次元に恋愛するのとか、私にとってはよくあることだったw
画面から出てこないっていうより、私があっちに行きたかったw
そんなんだから、瞬間で自分の考えがその作品の中の誰かにすり替わってしまう感じ。
感情移入しやすかったのかな。
だから、見たり読んだりする作品によって、私の性格はころころ変わってた。
お客さんが望むのはあのキャラかな?とか、そんな風に思って演じてた。
ある日、やってきたお客さん。
見た目は少し地味なおじさん。
オシャレしてるわけじゃないけど、清潔感はある感じ。
挨拶しても、
「はじめまして。よろしくー」
みたいな簡単な感じで、必要以上に話さない方がいいのかな?と私も少し落ち着いたキャラのスイッチを入れた
その人のアンケート用紙(どんなプレイがいいかとか、呼んでほしい名前とか)は、全ておまかせになっていた。
正直、一番困るパターン。
なんか一つでも希望があればそこから探れるんだけどなあ…
その人、要潤に似てるから要さんにします
要さんの着てたジャケットを脱がせながら、なにか手掛かりがないかと話しかける
「要さん、サラリーマン?」
スーツじゃなく、カジュアルな装いだったので、オフィスでの仕事ではないんじゃないかと思ってたけど、一応。
サラリーマンじゃないでしょ?って言うのもなんか失礼だし。
要「え?はい、そうですよ」
私「!?」
まさかの答えに会話のシミュレーションが崩れかける
なんとか立て直さないと。
お客さんの中には、たまに自分の職業とか偽る人がいる。
偽名まではまあ分かるとして、そこまで身バレ恐れなくてもいいと思うんだけど。お次に来た時に、お客さんが、その設定を覚えてなくてあたふたしたりもするw
で、私はなんかそういう嘘は暴きたくなる。ごめん本当は…って言わせたくなる。
嘘がばれて、気まずくなってる相手を見て、内心勝った気になってるんだろうな。
たまにそういう矛盾を見つけては意地悪してたりした。
私「…カジュアルなお洋服でもいいんですね?」
要「そうだねー、うちはそういう会社だね」
うーん、どうやら本当っぽい。
私「じゃあ、シチュエーションは、部下のOLさんからイタズラされるとかどうですか?」
ベタだけど…見たところ気弱そうだし、なんかそういうの好きそう!
と、失礼な事を考えつつ、要さんのベルトに手をかけようとした
要「うーん…。とりあえず疲れたから、肩揉んでもらっていい?」
私「」
こいつ、何しにきたんだよ!!!
とは思ったけど、たまにそういう人もいるのはいるし。
いいですよーとベッドに腰掛けるように促して、後ろに回って肩をマッサージした
始めは、おいくつなんですかー?とか、よくお店来てくれてるのー?とか、当たり障りのない話をしてた。
でも、要さんも徐々に話すようになってくれて、
「今日は~~で、ずっとPC触ってたから肩を凝っちゃって」とか、そんな感じで世間話をしてた。
この人は、嘘つかないタイプだなと思った。
途中、何かの話から、ニュースの話になったんだよね
まとめサイトとかよく読んでたから、なんか変なニュースの話題も頭に残ってたんだよw
「○○…みたいな、変な事件もあるみたいですね」
って話を振ったら、要さんが噴き出した
要「…1ちゃん、スケベしようや…とか知ってるんじゃない?ww」
私「www知ってますねえwww」
要さんも、同じようなタイプの人でした。
お互いに、なんだよオタクかよみたいな感じで打ち解けてしまって、
私も最初のキャラ設定はどこへやらで、たくさん話しをした。
要さんも、最初とは全然違う感じで、、饒舌に話してくれてた。
お互いにプレイどころじゃなくなってしまって、その日は結局、話しただけで時間が終わってしまった
帰り際、要さんは、やっぱりあっさり帰っていった。
こんな風に話が弾んじゃうと、
「今度ゆっくり話そうよ」
とか言って連絡先聞いてくるひとが多いんだけど。
遊び方わかってるなーと思いながら、その日は気分良く仕事することができた。
それから一ヶ月後くらい、また要さんが来てくれた。
私「ご無沙汰してます」
要「….本当に覚えてる?」
私「あれだけ話せばしばらくは忘れられませんねw」
二回目は最初からすごくナチュラルに話せた。
お客さんはもちろん、友達でも母でも、一緒にいる時、すごく気を張ってた。
退屈してないかな?
今の一言で、気分悪くしてないかな?
疲れてないかな?
って。
でも、要さんはすごく楽だった。
最低限の気は使うんだけど、会話の中で無理に笑ったりしなくてもよかった。本当に楽しくて笑えてた。
その時も、全部おまかせになってたから、
今日こそはプレイしましょうねーって言って服を脱がせた。
シャワーを浴びてきてもらって、その間にプレイの構成を練る
アニメが好きとかそんなのではなさそうだし…痴女系のお店にくるぐらいだから、少しはMなんだろう…
色んな事考えながら、要さんを待つ。
タオル一枚でシャワーから出て来た要さんをベッドに座らせて、膝に跨った。
私「どうしてほしい?」
要「……普通でいいですよ」
私「いやwせっかく来てるのにそれはないでしょw」
要「話してるのが楽しかったから来たんだけどなぁ」
私「でもお金もらってるのに」
要「……うーん、それはそうだけど」
結局、なんかやらせろ!って言って、
二人でベッドに寝そべって手で抜いた。
お客さんからのお触りは禁止されてるから、要さんは律儀に守って腕を上げて枕に突っ込んでた。
一切触ろうとしない人って珍しいんだよ。
要「イメクラって、笑っちゃうんだよなー。どう見ても二十歳超えてる女の子に、先生って言われてもなー」
私「それ禁句ですよ」
要「あと、痴女系っていうのもなー。女性の言葉責めってなんか笑えるよね」
私「この店を選んだ理由が知りたいんですけどw」
過去に友達に連れてこられて、そのままなんとなく来ているだけだそうだw
抜かない事もしばしばとのこと。
「でも、指名しようと思ったのは1ちゃんが始めてだよ」
他のお客さんなら、はいはいって流しちゃいそうなセリフも、要さんに言われると嬉しかった
4回目くらいに来てくれた時、なんか面白いまとめスレはないかって話になってw
「見つけたら送るから、アドレス教えてよ。捨てアドでいいから」
って言われた。
あーやっぱり、要さんもかーって、少しがっかりした。
連絡先交換、基本は禁止だしね。
そこから、店外の誘いになって、私は断って、要さんもお店には来なくなって…
っていう流れが想像できた。
でも要さん、まじでスレのアドレスしか送ってこなかったw
口説きとか、何してるの?とか、一切なしw
しかも、こっちから送ったら昼間でも夜間でもほぼ即レス。
なんか、嬉しかったんだよねー。
ちょっと特殊だけど、趣味の話できる男の人って今までいなかったから。
それからも、要さんは変わらずにお店に来てくれた
月に3回くらいのペースで来てくれたかなあ。
そんなに頻繁ではないけど、少し長めの時間をとって、ゆっくりまったりしてる感じ。
「1ちゃんまじで可愛い。マジ天使ww好きwうえwww」とか言ってイチャイチャしてた。
要さんはお客さん。
恋愛の好きとかじゃなったけど、でも特別なお客さんではあった。
色んな話をするようになった頃、要さんは、
「僕、結婚してるんだよ」って言った。
なんとなく、そんな気はしてた。
既婚者独特の落ち着きっていうか、なんかオーラがあるんだよねw歳ももちろんだけど、なんかわかる。
今まで既婚者と遊んだりすることが多かったから、そういう時の返事は決まってた。
「私、人のものに興味はないから安心してね」
好きになんてならないよ、あなたのものにはならないよ、っていう、
私なりの角を立てない断り文句だった。
お互いに、割り切った付き合いならできますよ、って言う。
それでも分かってなさそうな馬鹿には、
「既婚者と遊んでも私の将来にはなんの足しにもならないんだよね。仕事してる方がマシ。」
って突っぱねた。
恋愛できないなら、一生そばにいてくれないなら、私の時間を割いてまで一緒にいたって意味ないから。
不倫だ慰謝料だとか言われるリスクを背負ってまで、好きでもない人と一緒にいる意味なんてない。
お金にならないなら、そんな時間は捨ててるのと同じだ。
風俗のお店の中の事なんだし、不貞行為にならないとは思うから、言う必要はなかったのかもしれないけどね。
内心、ショックだったのかもしれない。
そうやって、突き放して距離を取ろうと思ったんだと思う。
要さんは、まだ今はただのお客さんだ。
少し仲良くなって、一緒にいて楽しくって、メールも頻繁にするようになってたけど、
それでもお客さんで、しかも妻帯者。
これ以上、仲良くならない方がいいんじゃないかって思ったのは、多分、惹かれてる自覚があったからだ。
好きになる前でよかった。
この人が、嘘をつかない人でよかった。
好きになるまで知らなかったら、きっと、辛かった。
それでも、その事実を頭に置いてれば、このままきっと好きにならずにいられるだろうって、思って
今まで通り、要さんとは連絡取り合ってた。
要さんも変わらずに、お店に来ては二人の時間を過ごした。
そういうのが半年以上続いてた。
私は変わらず仕事ばっかりしてたし、要さんとも相変わらずの距離感を保ってた。
でも、いつの間にか要さんからのメールが楽しみになってた。やり取りも、少しずつ頻繁になっていった。
私がメールのやり取り慣れてなくて、なかなか返事をしないことが多かった。
ある日、要さんが携帯で撮った写真を見せてもらっていた時、なんかすごい高級そうなご飯の写真があった。
私「うわー、いいもの食べてますね」
要「これはまじで美味しかったわー。腰抜けるほど高かったけど」
私「…奥さんと?」
要「いや…妻とは外食なんてしない」
その時の要さんの表情はすごく複雑で、なんかそれ以上は踏み込めなかった。
私が話を逸らそうと次の話題を探していると、要さんは続けた
「1ちゃんと、ご飯食べに行きたい」
要さんは照れたような顔してたけど、私は思わず笑ってしまった
私「…初めてそういう事言ったね」
要「ずっと誘いたかったけど…1ちゃん嫌がると思って」
私「そうだね…喜ぶこととは出来ないねー」
これを断ったら、要さんとの関係が壊れる気がした。要さんを傷付ける気がした。
店外狙いのケチなお客さんはいっぱいみてきた。一度店外して、外で会うことしか言わなくなったから切ってきたお客さんも何人もいた。
でも、要さんはそういうんじゃないなーって思った。少なくとも、お店の中料金ケチる気持ちで店外に誘ったんじゃないだろうってw
「いいですよ。行きましょう」
これは今までのお礼だって思った。
今までいっぱい来てくれた、常連さんへのお礼。
もしこれで要さんがお店に来なくなったり、店外にしつこく誘ったりしてきたら、
その時はもう切ろうって。
それには躊躇いはなかった。
要さんは恥ずかしげもなく大喜びして、
「お店選んでおくね!」って小躍りしながら帰って行った
そうですね。けっこう最近だし、印象的だからかな。
要さんとの事はだいたい鮮明だよ。
その日の夜、「日程、いつがいい?仕事の都合もあるだろうから。」とメールがきた。
その日はまだ、月の初め頃。
仕事の予定は、一週間単位で決められてけど、なんとなく、今週とか来週とか、具体的な日を決めるのがまだ怖かった。
それまで、店外とか平気だったのになー。急に怖気付いたw
今月の最後の週なら、いつでも大丈夫。
と返して、その日は寝た。
次の日、いつも通り出勤。
スタッフに、「今日の予約ね」と渡された予約カードの中に、要さんの名前があった。
要さんがその日の最後のお客さんだった。
私は「昨日きたのにwメールもしたのにw月末にはご飯行くのにwなんでまた今日くるのww」とかめちゃくちゃ笑ってしまったけど、
「OKもらえたのが嬉しくて、来てしまった」
と要さんは照れてた
なんかこの人好きだなーと思った。
その日、「お互いに本名も何も知らないのに、こんなに仲良くなるって不思議ですね」と言うと、
「あれ?渡してなかったっけ」
と、名刺を出してきた。
風俗店で名刺出すのって勇気いるでしょ?と笑うと、
「1ちゃん信用してるから」と笑った。
名刺を見ると、要さんの名前の横に、“代表取締役”と書いてあった。
「うーわ、社長ですか」
「…言ってなかったっけ」
「聞いてないよw…社長、風俗店で名刺渡して大丈夫なんですかww」
「さすがに誰にでもは渡さないよ」
そんなやり取りをして、その日は会社の話とか、月末になに食べに行くかとか話をした。
その日のメールにも、「1ちゃん本当に大好きだよ」とか書いてあった。
私は、ありがとうって返した。
今まで遊んできた人にしてたみたいに、
自分にとって都合がよくなるような、冷たい返事を返すことは出来なくなってしまっていた。
食事の日、少しドキドキしながら待ち合わせ場所に行った。
お店以外で会うのは初めてだ。
お化粧けばくないかなとか、服、外してないかなとかすごく気になった。
女子だなあ。
要さんはいつも通り、カジュアルな服でやってきた。
そこから近い料亭みたいなところに入って、個室で、向かい合って座った。
「…社長って、いつもこんないいところでご飯食べるの?」
「うちみたいな中小が、そんな生意気しないよw」
いつも通り、冗談言い合いながら。
いつもより、少し深い話をした。
奥さんとは仲が悪くてもう何年も口きいてない、
一緒にご飯食べることもない、
セックスもしてない、
とか。
浮気したい既婚者の常套句みたいな事が並んでた。
そんな事いいながら、実際はちゃんと夫婦してるんだよねって思いながら聞いてた。
でも、私にとってはそれが嘘かどうかなんてどうでも良かった。
ただ楽しかった。いろんな話をして、あっという間に時間が過ぎた。
「…私、○○です。」
初めてお客さんに本名を言った。
「改めて。よろしくね」と笑いあった。
その日からさらに要さんとのメールが楽しみになって、
相手が既婚者だからとかって考えは頭の中からなくなった。
ただ、要さんっていう人には、すごく興味が出てきてた。
まだ恋愛感情じゃなかったけど、そうなってしまうことは予想できてたはず。
正直、この時に戻りたい。
自分を引き止めたい。
食事から帰ってきて、要さんにお礼のメールした。
要さんからは「ますます好きになりました」と、返ってきた。
数日後、要さんはお店にやってきた。
私が心配していたようなことはなく、いつも通り。
この間は楽しかったねーって。
でも、要さんは少し複雑そうな顔で、「この間、言えなかったことがある」と。
なにか新しい情報があるの?と笑ったら、
要さんは私の手を取って見つめてきた。
「…なにがあったの?」
私の、リストカットの傷の事だった。
シャワーしたりローションを使ったりするから、コンシーラーで隠してもすぐに取れてしまう。布のサポーターでもすぐに濡れるから使えない。バンドエイドじゃあからさまだし。
なるべく、傷を見せないように仕事をする
他なかった。
時々、お客さんに聞かれる事はあったけど、「若気の至りだよー」とか笑ってごまかしてた。
要さんにもなるべく隠してたつもりだったけど、ばれてしまっていた。
私「…流行りみたいなものでしょ?風俗嬢がリストカットとか、ありがちもありがちな…」
要「そんなことは聞いてない」
いつになく真剣な顔だった。
そのまま腕をぐいっと引っ張られて、私は要さんに抱きしめられていた。
「いつ、なにがあったのかはわからないけど…その時、僕が側にいたらなにか出来たかもしれないのにって思ってた。助けてあげられるなら、今からでも助けたい」
いつもふざけてるくせに、そういうのずるくない?
そんな事、言われたのは初めてだった。
お客さんだからじゃなく、どんな人にも言われたことなかった。
助けたい、なんて言われた事なくて、嬉しくなってしまって、思わず私も要さんに抱きついた。
少し落ち着きたくて、ひとまず要さんをお風呂に追いやった。
深呼吸して、要さんがお風呂から出てきたら、またご飯行った時に話しましょうよってはぐらかそうって思った。
今までの私の話なんて、要さんには知られたくなかった。
弱い自分の話しかない。
馬鹿にされるんじゃないか。嫌われるんじゃないか。
不安だった。
お風呂から出てきた要さんは、いつも通りタオル一枚でベッドに寝そべった。
その横に添い寝して、体を撫でる。
痴女モードで乗り切れるのなら、そうしたかったw
要さんは、その私の手を取って指を絡めた。
「ちゃんと話しようよ」
この人は、興味本位で聞いてるんじゃないんだなってわかった。
私の中の、“話せる話”を探して、少しずつ話した。
不登校の事、母との距離感がうまく掴めていないこと、過去の職場での事が原因で自傷していたこと。とか。
風俗続きの職歴は、さすがに話せなかった。
でも、最近は要さんがメールくれるから楽しいよーとか、
この仕事で、少しずつ余裕が生まれてきたんだよーとか。
要さんは顔を逸らしてたけど、手はずっと繋いだまま聞いてくれた。
「昔のことは、今となってはなんてことない事ばかりです。今の私、元気でしょ?」
要さんの手をぶんぶん振りながら、明るく言ったつもり。
でも、本当はそんなことなかった。
仕事に行く前はいつも憂鬱で
また、男の裸を見ないといけないのか
性器に触れなくちゃいけないのか
規則を無視して触ってくる客を、優しくいなさないといけないのか
少しずつ、そんな風に思い始めてた時期でもあった。
要さんみたいな人と話すと、そういうお客さんに対する嫌悪感が増す。
そうなると、余計に仕事しにくくなってしまう。
お客さんと仲良くなってしまうのも、善し悪しだと思う。
「あのね、1ちゃん」
この時から、要さんは私のことをずっと本名で呼ぶようになってた
「昔の事で、1ちゃんへの見方が変わることはないから安心して。
でも今の1ちゃんも、僕には楽しそうには見えない。こういう仕事が楽しい?生活があるだろうから、辞めろとは言えない。でも、風俗を好きでやってるような女の子は、1ちゃんに限らずいないと思ってる。
僕の立場には限界があるけど、できる限り普通に恋愛して、普通にデートして、楽しい事を二人でしたい。その中で、僕の事を好きになってくれればもっと嬉しい。
…少し、考えてもらえないかな」
ゆっくり、噛みしめるように要さんが言った。少し体を起こしてのぞいた顔は、なにか悩むように眉間にシワを寄せてた。
「考えるって…付き合うとかそういう?」
私は思わず聞き返した。結婚してる人と、恋愛。
父親が繰り返してた不倫。奪っていった相手の女が憎かった。
私と母のいる生活を捨ててでも、父に選ばれたその女が憎かった。
今度は、私がその憎まれる立場になる?
「….わからないです」
それしか言えなかった。
要さんと一緒にいると楽しい。
要さんは優しい。
きっと彼氏なら、毎日楽しくなった。
お客さんじゃなければ、既婚者じゃなければ、きっととっくに好きになってた。
今まで、男性はお金としか考えてなかった私のその考えを、ぶちやぶってきた要さん。
失いたくはない。でも、頭の中でだめだって思ってる部分もあって。
今すぐには、答えは出せなかった。
「ゆっくりでいいよ。僕にとって都合のいい事言ってるのはわかってるから。…ただ、僕が全裸でかっこいい事言ったのだけは覚えておいて」
「www」
重くなり過ぎないようにちゃんと気遣いをしてくれるこの人が、すごく素敵だと思った。
おやすみ
そうですね。
いつのまにかこれがこの話ですーって、書くの忘れてました、ごめんなさい。
ノンフィクションなんだけど小説のようなわかりやすい文章で、とても読みやすい。
どしどし書いてくれ!
おやすみ
それから、要さんとはまた変わらずにメールしたり、時々食事に行ったりしてた。
要さんに対しては、店外だし既婚者だし!って、お小遣いほしいとか思わなかった。
利用しようと思えばきっとできたんだろうけどね。
私も要さんといるのが楽しみだったし、要さんの事が色々わかってくるにつれて、どんどん惹かれていって、そんな気分にはならなかった。
要さんは、賢い人だった。
学歴とかじゃなく、知識と教養もある人だって印象だった。
少なくとも、風俗嬢に入れ込んでお金使うような馬鹿じゃないと思った。
恋愛にはすごくまっすぐな印象ではあったけど。
もし私が要さんにお金の要求なんてしてたら、躊躇なく彼は離れていったと思う。
一緒にいる間は、自分も風俗嬢じゃなくて、一人の女の子でいたいなーとか、なんか厚かましく思ってたw
要さんも、私をそうやって扱ってくれた。
お客さん以上、友達以上、恋人未満….みたいな関係が数ヶ月続いてた。
毎日メールして、好きとか会いたいとかいっぱい言ってくれる要さんを、好きにならないわけはなかった。
話を聞いたり、時間の使い方、メールくれる時間とかからも、本当に奥さんとは不仲なんだろうな…って、思うようになった。
ある日、要さんと食事中。
私は意を決した。
私「あの…前の…話なんだけど」
要「前?なんだっけ」
私「…付き合うとか…そういうの…」
要「……もう、付き合ってるよね?」
私「えっ?」
要「…違うの?」
私「ち…ちがわない」
え?付き合ってるの?w
これだけ何回も会ってればそうなるのかーと納得してたけど
あとから聞くと、要さんにとっては賭けだったらしいw
断られるかと思ったらしく、そうやって言ってしまえば、この場では断りにくくなるんじゃないかってw
たしかに、付き合うとかそういう言葉は私からは言えなかったかもしれない。
不倫だって事は、頭の中で何度も何度も考えたから。普通の恋愛みたいな言葉は似合わない。
ただ、要さんの事が好きで一緒にいたい。
離婚してほしいとか、私が要さんの奥さんになりたいとか、そんな気持ちはなかった。
要さんの事が好きだって思った。
はじめて、他人にそんな風に思った。
それからは、更に一緒にいる時間が増えた。
私が仕事で少し夜遅くになると、会えなくて寂しいって言って拗ねたりする。
愛されてるって、自信がもてた。
今まで、好きとか付き合いたいとかはいっぱい言われてたけど、「会いたい、一緒にいたい」なんて言われたのは初めてだった。求めてくれてるんだって、嬉しかった。
私も、要さんに会いたいと思った。一緒にいたいと思った
要さんは、私と母の関係をすごく真剣に考えてくれた。
共依存は、その対象と自分の距離を認識する事が必要なのは自分でもわかっていた。
要さんが、一人暮らしするためのお金と、毎月の家賃を用意すると言ってくれた。
私はそれに甘える事にした。
普通のワンルームのマンションだけど、私にとってはなにより落ち着ける場所だった。
ベッドとPCと本棚くらいしかないけどじゅうぶん。
お互いに空いてる時、要さんはうちに来てくれた。
私の都合で会えない時、要さんは家に帰ってしまう。
会話もなくて、食事もいっしょにしない、なんて言ってた冷たい家に、要さんを帰したくないって思った。
私の勝手な独占欲もきっとあった。
でも、要さんが寂しくならないようにしたいと思った。
なるべく一緒にいる時間を作ろうと思った。人のために、初めて仕事を減らそうと思った。
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