忘れられない夏がある
武智「元気、お前は危ないしケガしそうだから来るな」
武智「俺らがいない間、先生へのごまかしと偽装工作を頼むわ」
元気「おう、分かった……」
吉谷は、無言で自分の席へと戻っていった。
俺と武智の二人で、ヒロコを守ることになる。
大丈夫だろうか?
けど、四人の関係性が…
見ててむずむずするぜ
夜、夕食までの自由時間になった。
空は藍色が燃え、不気味に日が沈みかけていた。
ヒロコを助けようと思って言い出したことだが、
やっぱりその時が迫ってくると、怖かった。
武智と二人で自転車置き場に向かうと、そこには吉谷の姿があった。
俺「お前、なんで?」
吉谷「相手は2人だろ? それなら、3人いた方がいいじゃねえか」
俺と武智は見合って笑ってしまった。
俺「俺が2ケツしてやるから、乗れよ」
3人で、あの神社を目指すことにした。
薄暗くなった鳥居にたどり着くと、俺はなんだか怖気づいてしまった。
俺「でも、マジでケンカになったらどうしよう」
それを聞いて武智が笑った。
武智「もうここまで来たら、どうなってもいいじゃねえかw」
吉谷は黙っていたが、別にもう言葉なんていらないと思った。
一緒に来てくれた。
ただ、それだけが全てだと思った。
俺は一人じゃない、そう思えることが心強かった。
どうなったって大丈夫、こいつらがいるんだ。
進んでいくと、境内の灯りの下でヒロコとあの2人のヤンキーが話していた。
この前の短髪と、赤髪の奴だ。
緊張と不安でバクバクと鳴る心臓を抑えつけ、
俺は正面きって言い放った。
俺「ヒロコ、来たぞ」
俺の声を聞いて、ヤンキー2人もこちらを睨みつけた。
ヒロコは、すぐにこちらに駆け寄って来た。
短髪「なんだお前ら?」
俺「ヒロコがお前らに言いたいことがあるって言うから、来たんだよ」
するとヒロコは、何度も頷いた。
短髪「はあ? 意味が分からねえんだけど」
ヒロコ「もうあたしに一切関わらないで」
恐怖なのか、ヒロコの声は震えていた。
ヒロコの言葉を聞いて、赤髪の方が笑いだした。
赤髪「言いたいことって、それぇ?」
赤髪「マジで、馬鹿か?」
赤髪の目つきが強張り、俺たちの方へと歩み寄ってきた。
赤髪「ヒロコと俺らは友達なんだよ? 分かるかぁ?」
赤髪「お前らが何か吹き込んだんだろ? あぁ?」
俺「友達なわけねえだろ、お前らヒロコから金取ってるくせに」
そう言うと、赤髪はまた不気味な笑みを浮かべた。
赤髪「意味分かんねえw あれはギター代だから」
赤髪「てめえこそ何も知らねえくせに調子乗んなよ?」
赤髪はそう言って、どんどん俺たちに近づいてくる。
俺「お前らと縁を切ることは、ヒロコの意志だ。もう関わるな」
たじろぎながらそう言うと、赤髪がこちらに飛びかかってきた。
かと思うと、武智が低い姿勢で思い切りタックルし、赤髪を倒した。
赤髪は倒れ込んで咳き込むと、「ぐぅぅ!」とうめき声をあげた。
武智は「動くな!」と大声を出して赤髪を必死に押さえつける。
元々ラグビー部で、体格も良い武智がいて助かった。
すると短髪の方が勢い良く俺に近づいて、胸ぐらを掴んだ。
短髪「おい? どういうつもりなんだよ?」
俺は抵抗することもなく、「ヒロコにもう関わるな」と言った。
イケメン
不意に、髪を掴まれたかと思うと、俺は思い切り腹に膝蹴りを受けた。
激痛が走って、その場に沈み込んでしまう。
後ろに回り込んでいた吉谷が「てめえ!」と言って短髪を押し倒した。
痛みを堪えて起き上がり、すぐに吉谷を加勢する。
吉谷と短髪が倒れ込んでもみくちゃになっていたので、二人がかりで短髪を押さえつけた。
腹のみぞおちあたりが、すこぶる痛い。
どうやら、もろにもらってしまったらしい。
痛みで朦朧とし、額にはじっとりと嫌な汗をかいていた。
俺は必死に短髪の首根っこを押さえつけ、
「もう、ヒロコに関わるんじゃねえよ! こんな子いじめて何が楽しいんだよ!?」
と、体の底から叫んだ。
短髪はこの状況でもなお不敵な笑みを崩さず、
「じゃあ金だ。金さえ出したらもうほっといてやるよ……」
としゃがれた声でのたまうのだった。
俺「てめえ、ふざけんなよ!!」
俺がそう叫んだ瞬間だった。
ヒロコが短髪に近づいてきて、「ほらよ」と一万円札を差し出した。
短髪「あ?」
ヒロコ「もう、これで終わりにしてよ」
ヒロコ「言われた通りあげるから、もう関わらないで」
短髪はその一万円をむしるように受け取ると、
「最初から出せや」と悪態をついた。
俺たちが押さえていた手を緩めると、短髪は「離せクソ」と立ち上がった。
短髪「あー、もう来ねえよ。金さえパクれりゃこんな神社に用があるかよ」
短髪「もう二度と来るかっての」
赤髪も立ち上がり、「一生ギター遊びでもなんでもしてろ」と言い捨て、
ヤンキー2人はバイクにまたがり、けたたましい音と共に神社から去っていった。
バイクの音が遠ざかるまで、俺たちは黙ったままだった。
続きはまた明日か明後日に書きにきます
見てくれてる人、ありがとう~
ヤンキー撃退成功…なのか?
続きが楽しみ待ってるよ!
続きが待ち遠しいねぇ
続きを書いていきます~
俺「なんで、お金を?」
ヒロコ「あいつらの目的は、あたしから金を取ることだったしね」
ヒロコ「何もかも片付けるには、結局はこうするしかなかったと思う」
俺「そっか……」
なんだか悲しくなった。これは成功といえるのだろうか?
ヒロコ「それでも、みんながいなきゃあんなに強く言えなかったから」
ヒロコ「今日きっぱり縁が切れたのは、来てくれたおかげだよ」
弱々しい笑顔だった。無理してるんだろうな、と思った。
ヒロコ「本当にありがとう。1と……」
武智がぶっきらぼうに「武智」と言った。
続いて、吉谷も苦笑いで「吉谷」とだけ言った。
ヒロコは小さく微笑んで、「武智と吉谷も、ありがとう」とお礼を言った。
ヒロコ「1は蹴られたけど、大丈夫……?」
俺「蹴られた瞬間はやばかったけど、今はなんともないよ」
そう答えると、ヒロコは「よかった、みんな怪我しなくて」と安堵の表情を浮かべた。
武智「でもそれ、訴えたら暴行罪で勝てるよな~w」
吉谷「そういう発想が、お坊ちゃんって感じだよな俺ら。情けない」
武智「別にいいだろww」
緊張が緩んで、次第に和やかな雰囲気になっていく。
良かった。とりあえず俺たちは、あのヤンキーに勝ったんだ。
俺「でも、1万円なんて大金、大丈夫だったの?」
ヒロコは黙ってかぶりを振った。
ヒロコ「ほんとはね、あれでアンプを買いたくてずっと貯めてたんだけど……」
ヒロコ「でも……」
そう言うと、ヒロコはぽろぽろと涙を流した。
吉谷「え、ヒロコちゃんアンプ持ってなかったの?」
ヒロコ「ううん、持ってるけど、すごくボロボロだから」
ヒロコ「あたし、バンドしたかった。本当に、ただそれだけだった」
ヒロコは鼻をすすって泣き始めた。
ヒロコ「明日ね、夏祭りでステージがあるんだけど」
ヒロコ「そこで演奏したくて、あたし勝手に申し込んでたの」
それを聞いて俺たちは顔を見合わせた。
俺「え? 夏祭りって、ふもとの夏祭りだよね?」
ヒロコは目に涙を浮かべたまま、「そうだよ」と答えた。
俺たちが担任に「遊びに行ってもいい」と言われていたお祭りのことだ。
無論、俺たちはみんな行く気でいた。
そこで、ステージがあったなんて。
ヒロコ「だから、さっきのあいつらに一緒に出ようって言ってたんだけど」
ヒロコ「全然ダメだった」
ヒロコ「もう、諦めるしかないかな……」
涙を腕でこすり、ヒロコは俯いた。
この前何か揉めていたのも、きっとこの夏祭りのステージのことだったんだ。
ヒロコは本当にステージに立って演奏がしたくて、それで……
俺は吉谷の顔を見た。
吉谷は黙って頷いた。
俺「ヒロコ、ステージに立ちたいか?」
ヒロコ「え、どういうこと?」
俺「バンド組もうぜ、俺たちで。一夜限りのバンド」
瞬間、ヒロコの顔に光が溢れ、笑顔が咲いた。
ヒロコ「え、うそ!? いいの?!」
俺「ああ。ギターがヒロコ、ベースが吉谷、そんでボーカルが俺」
吉谷は、「ドラムがいないのがちと難点だなw」と苦笑いした。
ヒロコは興奮を抑えきれないでようで、何度も頷いてみせた。
ヒロコ「いいよそれ! 最高! 最高のバンドじゃん!!」
目に涙を溜めたまま、思い切り笑顔になった。
俺「だろ? 俺もそう思うw」
武智「俺、エアドラムで入っちゃダメか?」
吉谷「それはいらねえだろww」
俺「バンド名は、そうだな……」
すると、ヒロコが何か言いたげにこちらを見た。
俺「何かあるの?」
ヒロコ「『THE SUMMER HEARTS』ってどうかな…?」
吉谷「お、いいねぇ」
俺「俺たちっぽくていいと思う!」
ヒロコは歯を見せてキラキラと笑い、「やったぁ、これでいこ!」とはしゃいだ。
武智のやつが後ろの方で、
「かー! サマーハーツ最高だねぇ~!」などと騒いでいたw
サマーハーツ、いいじゃん
俺「そのステージって、明日の何時から?」
ヒロコ「集合は、確か夜の6時だったと思う」
吉谷「それなら、すぐに戻って練習だな!」
そうして俺たちは、ヒロコを連れてそのまま宿に向かうことにした。
明日の夏祭りのステージに向けて、動き出した。
宿に帰ると、すでに勉強小屋で夜の勉強時間が始まっているようだった。
武智「見てきたけど、もうあっちで勉強会始まってるわ」
俺「元気は、上手くごまかしてくれたのかな?」
吉谷「俺たちは一旦部屋に戻るから、元気呼んできて」
そう言うと、武智は「ほいさ」と言って勉強小屋へと向かっていった。
俺とヒロコと吉谷はバレないように部屋へと急いだ。
部屋に着くとすぐに、吉谷はベースを手にとって喋り始めた。
吉谷「ステージって、何曲できるんだ?」
ヒロコ「多分、一曲だと思う」
吉谷「それなら、曲目は『終わらない歌』でいいよな? 簡単だし」
俺「いいと思う。それを完璧にしよう」
ヒロコも同調して頷いた。
吉谷「ドラムがいないっていうのは厳しいけど、俺がヒロコちゃんのギターに合わせるから」
吉谷「失敗してもいいし、この前みたいに思いっきりやろうせ」
ヒロコは「うん!」と元気よく返事をした。
吉谷「1、お前の歌もかなり重要だぞ? 歌詞は頭に入ってるか?」
俺「任せろって。カラオケで何万回歌ったと思ってるw」
調子に乗ってそう言うと、吉谷もヒロコも笑みを見せた。
吉谷「じゃあアンプもないけど、一回BGMナシで合わせてみよう」
そして、俺とヒロコと吉谷の三人の練習が始まった。
俺たちが部屋で練習をしていると、武智と元気と、委員長が来た。
武智が、「だめだめ! 委員長はもういいよ!」などと言っていたが、
元気と一緒に委員長も部屋に入ってきてしまった。
委員長「え、アンタたちお腹壊して寝込んでるんじゃなかったの?」
俺「あ……」
吉谷「……」
吉谷も俺も、言葉をなくしてしまった。
元気「と、いう風に俺が先生に話しておいたんだけど」
委員長「心配だから私が見に来たの」
そう言うと、委員長はヒロコをまじまじと眺めた。
委員長「で……この子誰?」
ヒロコは、委員長に対しても律儀に頭を下げた。
仕方がないので、俺たちは委員長にもこれまでの経緯を洗いざらい教えることにした。
俺「話せば長くなるんだけど……」
委員長「えー! それでアンタたち明日のお祭りで演奏するってこと?」
俺も吉谷も「まあ……」ときまりの悪い様子で返事をするw
武智「演奏じゃねえ、ライブだぞ」
委員長「そんなのどっちでもいいよ」
委員長に一喝されて、武智は変な顔をしていたw
委員長は、ヒロコに優しい視線を向け、「そんなに出たかったの」と質問した。
するとヒロコは「もちろんです!」と答えた。
委員長には、なぜだか敬語だった。
委員長「はあ、なんでアンタたちってこう危ないことするかなぁ……」
委員長は額に手を当て、がっくりとうなだれた。
俺「ごめん、委員長」
委員長「いいけど、今だって先生止めて私が代わりに来たんだからね」
委員長「正直、かなり危なかったよ」
そう言われて、ぐうの音も出ない俺たち。
委員長「もう分かったから、一曲やってよ」
その発言に、俺たちは呆気にとられた。
吉谷「え? なんて?」
委員長「せっかくここに来たんだから、聴きたいじゃんw」
武智は「マジかwwww」と笑っていた。
意外だったが、さすが委員長だと思えた。
「じゃあいくよ」と始めようとすると、「待って」と止められた。
委員長「やっぱり、明日の楽しみにしとく」
委員長「明日、私も聴きに行くから」
そう言うと委員長はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
俺「マジで? 来てくれるの」
委員長「そんな面白そうなの、見に行くに決まってんじゃんw」
委員長「クラスの皆にも、先生にバレないように水面下で広めとくから」
吉谷「委員長、本当にありがとう」
吉谷がそう言うと、委員長は「別に」と首を振った。
委員長「みんな、楽しそうで良かったよ」
委員長は素っ気なくそう言ったが、
もしかしたら俺と吉谷のことだったのかもしれない。
「THE SUMMER HEARTS」を組んでステージに立つことが決まってから、
俺と吉谷はすっかり自然体に戻っている気がした。
委員長「夜の勉強時間が終わるまでは、ここで練習するんでしょ?」
俺「まあ、そうだね」
委員長「先生は、戻ったらまた私と元気君でごまかしとくから」
委員長「あんまり遅くならないようにね」
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