忘れられない夏がある
とても楽しそうに駆け回っていたので、
それを遠くから眺めて、「宿に戻ったら俺もあいつらと野球しようかな」
なんて考えてニヤついてしまった。
やろうと思えばクラスのみんなと何だってできる。
そんな時だったんだよな。
すぐに我に返って、自販機は置いてないかと探してみる。
広場の方にはないようなので、俺は奥にある境内の方へと向かった。
境内の方へと歩いて行くと、少し様子が変だった。
何故か妙に煙草臭い。
まずいなぁ、地元のヤンキーのたまり場にでも来ちゃったかな、と少し不安を覚える。
しかしそこにいたのは、俺の想像とは違うものだった。
髪を明るい茶髪に染め上げた女の子が、拝殿の階段に腰掛けている。
白のカットソーにショートパンツというラフな格好で、
歳は俺と同じくらいか年下か……
そして、煙草をくわながら俺のことを睨んでいた。
思わず目が合ってしまい、たじろぐ。
時間が止まったように、周りの木が風に揺れてカサカサ…と鳴る音が聞こえた。
茶髪の子「何?」
俺「いや、別に」
女の子はフゥ、と煙を吐くと俺の方を見て続けた。
茶髪の子「見たことないんだけど。この辺の学校の人じゃないっしょ?」
俺「ああ、まあそうだね。東京の高校から来たから……」
茶髪の子「え、東京! じゃあもしかしてめっちゃ頭良いとか?」
やられた…
茶髪の子「え、すごくない? あたし東京の人と話すの初めてかもww」
俺「いや、そんなことないけど……」
女の子が、思いのほか可愛い笑顔を見せたので、少しドキッとした。
茶髪の子「東京の人がこんなとこに何しに来たの?」
俺「えっと、受験勉強の合宿というか……そんな感じ」
茶髪の子「勉強の合宿? なにそれ。意味わかんないね」
俺「うん、俺も意味分かんないんだよww」
雰囲気が壊れないように、俺は話を合わせてみた。
茶髪の子「意味分かってないの? ウケるんだけどww」
俺「マジ意味分かんないよww」
笑いが起きて、少しだけ打ち解けてきている気がした。
俺「そっちこそ、こんな所で何してるの?」
茶髪の子「うーん、別に何って……」
俺「一人でここに来たの?」
茶髪の子「そうだけど」
答えると、女の子はまた遠くを見つめて煙草を吸い始めた。
変な間ができてしまって、俺はその場で黙って女の子を見つめるだけだった。
何を話そうにも、何も浮かんで来なかった。
茶髪の子「そういえば聞いてなかったけど」
俺「なに?」
茶髪の子「何年生なの?」
俺「俺は高3だけど」
茶髪の子「ふーん、高校3年か……」
茶髪の子「じゃ、受験生だ。あたしと一緒だね」
そう言って女の子はフウ、と煙を吐く。
俺「あれ、君も高3なの?じゃあタメだね」
そう言うと、女の子は笑ってかぶりを振った。
茶髪の子「違うよ。あたしは中3だから」
その言葉を聞いて、心底驚く。
俺「え、マジ!? じゃあ俺の3つも下じゃん」
女の子はいたずらそうに笑って煙草をくわえる。
茶髪の子「はは、そうなるね。ごめんねガキで」
その笑顔が妙に印象的で、初対面だったのにも関わらず、
俺はその子に惹かれるような、でもそうじゃないような、不思議な感覚だった。
俺「いや、別に歳とか関係ないでしょ」
茶髪の子「え、良いこと言うじゃん。やっぱ頭の良い人は違うねー」
そう言ってまた笑うから、俺も一緒に笑ってしまった。
今までの人生で、話したことのないタイプの女の子だった。
彼女の後ろに目をやると、何やらギターケースのような物が置かれていた。
俺「それは、ギター?」
茶髪の子「そうだけど」
その答えに少しだけ気分が高まった俺は、
「何か弾かないの?」と水を向けてみた。
女の子は「うーん」とひとしきり悩んだ後、
「恥ずかしいからな」と言って開きかけたギターケースを閉じてしまった。
「何か聴かせてよ。お願い!」と頼み込むものの、
女の子は「でもなぁ」と困惑の表情を浮かべるだけだった。
俺が引き下がって、「それなら仕方ない」と諦めると、
気が変わったのか、「一曲だけなら……」と了承してくれた。
茶髪の子「ほんと下手だから、そこは期待しないで」
と俺に念を押し、ケースからギターを取り出した。
ケースから鮮やかな青色のギターが出てきた。
楽器に疎い俺にはそれが安いのか高いのかも分からなかったが、
ボディに「THE BLUE HEARTS」というステッカーが貼ってあるのは分かった。
女の子は一回深呼吸をすると、勢い良く演奏を始めた。
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!!
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!!
俺「終わらない歌?」
アンプにも繋がっていない渇いた音だったけど、「THE BLUE HEARTS」のステッカーも相まってか、
俺はすぐにピンときた。
茶髪の子「すごいすごい! よく分かったね!」
女の子は演奏を中断し、瞳を輝かせて俺を見た。
俺「うん、そのステッカーも貼ってあったし、俺もブルーハーツ好きだからさ」
茶髪の子「うっそー! マジで!」
嬉しくて仕方ないとばかりに、女の子は体を上下に揺らした。
俺「いや、意外だったわw まさかブルーハーツを弾くなんて」
俺「俺も大好き。最高にカッコイイよな」
そう言うと、女の子は「うんうん」と何度も頷き、
「マジでカッコいいよね! こんなバンド他にいないよ」と上機嫌に言った。
俺「ふふふ」
茶髪の子「どうしたの?」
俺「いや、なんでもない」
ブルーハーツの話題になってから、女の子の表情が瞬く間にカラフルになった気がして、
俺は思わず笑ってしまった。
懐かしいなぁ~名曲多いよな
続きはまた明日の夜書きにきますね。
よろしくお願いします!
ワクテカして待ってるよ~
いいね~
今後の展開が気になるが、ゆっくりやってくれ
楽しみにしてるよ
なかなか読ませるね
夜待ってるぞー
続きを書いていこうと思います
茶髪の子「周りにブルーハーツなんて言っても、知ってる子ほとんどいないんだよ」
茶髪の子「だから超嬉しい!」
興奮を抑えきれないようで、身振り手振りで自分の感情を表す女の子。
俺はやっぱりそれがどうも微笑ましくて、くすっと笑ってしまう。
俺「まあ、中3の女の子で聴いてるのは珍しいかもねぇ。友達が知らなくても無理ないよ」
茶髪の子「まあ、友達なんて……」
俺「ん、なんて?」
女の子がぼそっと囁いたが、よく分からなかった。
茶髪の子「ううん、別になんでもない」
俺「ねえ、もう一度『終わらない歌』弾いてくれない?」
そうリクエストすると、女の子は「いいよ」と笑って快諾してくれた。
ジャジャ!ジャジャ!ジャージャージャーン!というあのイントロから始まり、
女の子は体を揺らしながら夢中で演奏を始めた。
女の子の演奏は、お世辞にも上手いわけではなかった。
けど、すごく気持ちが込もっているというか、その演奏には妙に鬼気迫るものがあった。
中盤まで弾き終わったところで、女の子はピタリと演奏をやめ、
顔を上げて俺の方を見据えた。
茶髪の子「ねえ、歌ってみる?」
俺「え? どういうこと?」
俺の質問に対し、女の子はにやりと笑みを浮かべ、
「やっぱりボーカルが必要だと思うの。ヒロトだってギター持たないで歌ってるし」
その主張に、「なんだその理論は」と思ったが、俺もまんざらではなかった。
そもそも俺の方からギターを弾くことを頼んだんだし、断りづらい。
茶髪の子「ね、途中まででいいからさ」
女の子の期待の眼差しが俺に向けられる。
過去に一度ギターに挑戦したが上手く行かず挫折した俺は、歌うことなら好きだった。
それに、ブルーハーツならカラオケの自信曲である。
俺「いいよ、歌う」
俺「ヒロトほどにはいかないと思うけどね」
そう言うと女の子は、「当たり前じゃん」と吹き出して笑い、
「じゃあ、いくよ?」と首を振って拍子をとった。
あの聞き慣れたイントロのメロディーが、渇いたギターで奏でられる。
歌うとなると緊張して、その音色はか細く、遠いものに感じられた。
でも、染み付いたものは裏切らなかった。
「終わらない歌を歌おう! クソッタレの世界のため!」
ばちーんと出だしが噛み合って、俺も女の子も驚いて顔を見合わせた。
途中で何度かテンポが合わず手こずる部分もあったが、
止まることなく2回目のサビまで歌いきったところで、女の子は演奏を止めた。
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演奏を止めるやいなや、女の子は立ち上がった。
茶髪の子「すごい! 上手いじゃん!!」
俺を捉えた彼女の瞳には、無数の光芒が宿り、輝いていた。
そんな純粋な賞賛をもらって、思わず照れてしまう。
俺「よく歌うってだけ。慣れてるんだよw」
茶髪の子「そうは言っても!」
女の子は、俺の話を遮って一生懸命に主張した。
茶髪の子「あたしの下手な演奏でここまで歌えるなんて、すごいよ!」
茶髪の子「それに」
茶髪の子「あたしの演奏で誰かに歌ってもらったの初めてだから」
茶髪の子「すっげー嬉しかった」
女の子はそう呟くと、「ひっひひ」と笑った。
その笑顔は可愛かったが、とてもあどけなくて、今にも壊れそうな危うさも感じた。
彼女と会ってから初めて「やっぱり中3の女の子なんだ」と実感した。
それに立ち上がった女の子は俺よりも一回り小さく、
ゴツいギターが妙にアンバランスに見えた。
そんなことを思って少し戸惑いながらも、
俺は「ありがとう」と丁寧にお礼を言った。
女の子の興奮は収まらないようで、「ねえねえ」と食い気味に話しかけてきた。
茶髪の子「ロマンチックは? ロマンチックも歌える?」
俺「うっわ! 渋いね!」
予想外の曲目が出てきて、少々面食らった。
でも、本当に好きなんだって思って、嬉しくもなった。
俺「でも、あの曲はリズム隊がないとさすがに難しいんじゃないかなぁ」
茶髪の子「一回! 一回だけ……」
上目遣いでせがまれて、俺もひくにひけなくなった。
俺「分かった。じゃあ一回だけ」
そう言うと、女の子は「やった!」と笑顔になり、
立ったままギターを構えた。
二人で呼吸を合わせて、「いっせーの!」の掛け声と共に、
「シャラララ…」と歌い始めた。
意外にも調子が良く、俺が指で拍子をとると、
女の子は笑ってそれに合わせてくれた。
楽しくて、俺も思わずのめり込んで歌ってしまった。
途中でリズムが合わなくなり、「ごめん」と歌を中断すると、
「良かったのに!」と地団駄を踏まれた。
茶髪の子「それにしてもやっぱり上手い! 練習してるの?」
俺を捉える彼女の瞳は、瑞々しい光で満ちていた。
俺「いやぁ、好きでよく歌うだけだから。そんな練習なんてw」
茶髪の子「途中、ちょっとヒロトっぽかった!」
俺「そんなわけないだろーw」
なんてくだらないやり取りをして、二人で笑ってしまった。
続きはまた明日書きにきますね~
アンチはスルーで
夢中になって読んだわ
青臭くてむずむずするが、ぜひとも完走してくれよな
保守
続きを書いていきたいと思います
俺「でも、よく知ってるよね。ブルハのCDは全部持ってるとか?」
そう問うと、女の子は下を向いて「んーん」と首を横に振った。
俺「じゃあ、レンタルしてiPodとかに入れてる?」
茶髪の子「持ってないよ、そんなの」
俺は不思議に思って、首を傾げた。
茶髪の子「これで、聴いてる」
女の子はそう言うと、何やら音楽プレイヤーを取り出した。
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