人気記事

夏だし自分より年下の不気味な母親について話したい

68: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:09:56 ID:Fh0OlqERQ
洒落怖とか目じゃない怖さ
69: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:13:08 ID:X0Nc9eZGV
父がリビングから出てきた。
父は私に気づいたが、なにも言わずに二階へあがっていった。

「おかえり、ユイちゃん」

カホがリビングから出てくる。

「なにかあの人とあったの?」

「べつになにもないよ?」

「あの人が声を荒らげてるのなんて、見たことないんだけど」

きっと疲れてるんだよ。
それだけ言うとカホはリビングに引っこんだ。

70: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:17:57 ID:X0Nc9eZGV
カホの異常さはいやでも目についた。

その日はめずらしく『家族三人』での食事だった。
だけど、会話らしい会話はほとんどない。
カホが一方的にしゃべっているだけ。

以前までは父も話していた。
だけど最近は、声を聞くことさえなかった。

父が食事を終えて、リビングから出ようとしたときだった。

「お風呂に入るでしょ?」

静かな居間に、カホの声がひびく。

父は立ち止まりこそしたが、ふりかえりはしなかった。
その背中にカホはまた同じ言葉をかける。

「お風呂に入るでしょ?」

72: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:21:23 ID:Fh0OlqERQ
これは・・・・たまらんな
73: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:22:04 ID:IBwlF9jQp
うん…こんな家私なら早く逃げたいけどな、1には何か理由があるのかもね
74: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:24:07 ID:3vdbtSAD7
一人暮らしって言うほど簡単にできるものなのかね
仕事で忙しければそんな簡単にはいかんぞ
資金的な問題もある
75: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:25:15 ID:X0Nc9eZGV
「……あとにする。先にキミが入れ」

「お風呂に入るでしょ?」

背筋が薄ら寒くなるのを感じた。
この女はついに父にまで、自身のもつ狂気を向けたのだ。

「俺はやることがあるんだ。
あとから入るからお前とユイが先に入れ」

父の声は明らかに苛立っている。

「お風呂に入るでしょ?」 何度目かになるカホのセリフ。
カホの顔には、あの微笑みが張りついていた。

「お風呂に入るでしょ?」

父がカホを振り返る。

「……わかった。入るよ」

「うん。一番風呂で寒いかもしれないけど我慢してね。
あ、お父さんが出たら次はユイちゃんが入ってね」

私はだまってうなずいて料理を口にする。
口にふくんだカホの料理は冷めきっていた。

77: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:26:27 ID:CMndssplx
これはオチが気になる
79: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:29:59 ID:4DWZEbg67
不気味だな
80: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:30:26 ID:MAjXco3cg
いいから早くしろ
81: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:32:09 ID:X0Nc9eZGV
カホのせいで家の中の空気が、変化していくのを私は感じとっていた。
重くのしかかるような空気が、家全体を覆っていく感覚には覚えがある。

この家が私にとって、心安らぐ場所だったのはいつのころだったのだろう。

ここのところ、まどろみの中で『母』をさがす夢を見る。
この日もずっと『母』をさがしていた。
だけどなにか大きな音がして、唐突に現実に引きずり戻された。

からだを起こして、机のうえの目覚まし時計を確認する。
時刻は夜中の二時だった。

音はリビングから聞こえた。
私がリビングへと駆けつけると、父とカホがいた。

83: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:36:46 ID:X0Nc9eZGV
カホは床に座りこんで頬をおさえていた。
「な、なにがあったの?」と私の問にはふたりとも答えなかった。

「お前が悪いんだ……」

父の顔は怒りに強張っていたけど、同時に紙のように白かった。
やせ細って骨ばった父の拳には赤い血がこびりついている。
呆然とする私を父が横切ってリビングから出ていく。

「どこへ行くの!?」

私は父を問いただすために追おうとして、結局やめる。
カホの様子を見ることを優先した。

84: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:37:32 ID:3SI4oKKea
とうとう、鉄拳制裁か・・
85: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:38:19 ID:CMndssplx
マジでどうなっちまうんだよ
86: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:41:57 ID:X0Nc9eZGV
「大丈夫?」

唇の端が切れたのか、出血していた。
父がカホに手をあげたことに、私はなぜかショックを受けていた。

「言いすぎちゃったのかな。怒らせちゃったみたい」

カホがおかしそうに笑った。
笑うと唇が痛むのか、その微笑はいつもとちがっていた。

「またなにか言ったの?」

「少し注意しただけだよ、わたしは」

「それだけで手をあげたって言うの、あの人は?」

「そういう人でしょ、あの人は。
あなただってそんなことぐらい、わかってるくせに」

私は肩をかして、ソファにカホを横たわらせた。

88: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:46:34 ID:X0Nc9eZGV
「前にも聞いたけどさ。なんであんな人と結婚したの?」

カホが答えようとしないので、私はそのまま続ける。

「あの人はクズだよ。お母さんだってあの人のせいで……」

「そうだね」

カホは自分のお腹に手をおいた。

「あの人は奥さんがいても、平気で不倫とかしちゃう人だからね」

母の生前、父が不倫をしていたことを私は知っていた。
そして、その不倫相手の一人が目の前の女なのだ。

「わかってたんでしょ? 」私は言った。

「アイツが人間としてどうしようもないクズで、最低なヤツだって」

90: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:50:55 ID:X0Nc9eZGV
「ええ、もちろん」 とまたカホは笑う。
「じゃあ、どうして!?」 と私は思わず声をあらげた。

「幸せになるためよ」

カホ自分の腹部へと視線を落とし、
そのまま自身の手を腹部へともっていく。

「どんなことをしてでも、なにをしてでも」カホの声が冷たくひびく。

「わたしはわたしの幸せを手に入れるの」

「どんなことをしても……?」

「ええ、どんなことをしても」

幸せになる。

カホが自分に言い聞かせるように、もう一度言う。
その言葉はしばらく私の鼓膜にこびりついて、はなれなかった。

91: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:53:52 ID:CMndssplx
ごくり
92: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:54:56 ID:X0Nc9eZGV

「……とまあ、だいたいこんな感じなわけ」

私は話すのをやめて、カクテルを思いっきりあおった。

「先輩、飲み過ぎじゃないですか?」

後輩の声がぼんやりとしか聞こえなかった。
この時の私は、たぶん酔っていたのだろう。

「それで?  そのあとはいったいどうなったんですか?」

「お父さん? 死んだよ」

後輩の顔がかたまる。
予想通りのリアクションだった。

93: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:54:58 ID:rBr8STKlD
使わないコンセントはぬいて。そう言ったよね?
95: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:55:57 ID:Dd9bAvNuI
>>93
やめろ
97: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)01:59:24 ID:X0Nc9eZGV
「正確に言うと、殺されたんだよ」私は続ける。

「さっきも話したけど。
父がカホに手をあげて、一週間ぐらいしてからね」

「そうだったんですか」

後輩がしぼりだすように相槌をうつ。

「てっきりさ、殺したと思ったんだ」

「え?」

アルコールのせいで、言葉がチグハグになってしまう。
私は言い直した。

「だから、カホがあの人を殺したと思ったの」

100: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)02:03:48 ID:X0Nc9eZGV
「……なんでですか?」

後輩の声が低くなった気がした。
私は構わずに言葉を続ける。

「いや、単なる勘。だって、ありそうな話じゃない?
暴力ふるわれた女が、それをきっかけに男を殺そうとするって。
ありそうじゃん、サスペンスとかで」

「でも、その人は先輩のお父さんを殺してないんでしょ?」

「おそらくね」と私はためいきをつく。

「父が殺された時間帯、あの女には完アリバイがあったみたい」

そう。私の予想は外れた。
捜査の結果では、カホには完全なアリバイがあったらしい。

101: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)02:05:35 ID:NEUyYUB9G
他人を洗脳するくらいできそうだな…ストッパー効かないくらい、人だって殺められるくらい追い詰められそう
102: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)02:07:34 ID:X0Nc9eZGV
「犯人は捕まったんですか?」

「全然。いまだに捜査中だね。 もう半年近く前の話なんだよね」

「本当に警察ってば捜査してんのかな」と私が言うと、後輩は苦笑いした。

「犯人、早く見つかるといいですね……」

「そうだね」

私の返事は自分でも笑ってしまうほどにぞんざいだった。

「きみも気をつけて。世の中本当に物騒なんだから」

「そうっすね。オレも全身殴打で死亡とかいやですからね」

「はは、それは私もだよ」

違和感が脳のどこかで引っかかる。
でも流し込んだアルコールのせいで、
その違和感は、あっという間に喉のおくに消え失せた。

107: 名無しさん@おーぷん 2014/07/30(水)02:10:28 ID:X0Nc9eZGV
「とりあえず、店出ましょうか」

後輩に会計をまかせて、私は店を出た。
遅れて後輩も出てくる。
夜風が肌を突き刺してくると、不意に不安が頭をもたげた。

「今日はありがとね。私の話、聞いてくれて」

「いや、少しでも先輩の力になれたならよかったですよ」

鼻のおくがツンとした。
アルコールのせいなのか、私は情緒不安定になっているのかもしれない。

「ここんとこさ、私の生活めちゃくちゃでね」

「……先輩」

気づくと視界が滲んで、目の前の後輩の輪郭さえ曖昧になっていた。