十年巻き戻って、十歳からやり直した感想
87:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 00:14:06.17 ID:z9P33ux30
引き込まれるわ
面白いなぁ
94:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 16:36:35.08 ID:JuWNwpCZ0
ところで、二周目の僕が、擁護しようがないくらい
明らかに一周目の僕より劣っているとは言え、
部分的には、優れているところもあったんだ。
第一、そうでなきゃ、やってらんないよね。
二周目の僕は、一周目の僕と比べると、
百倍くらい本を読む人間だったんだ。
それはもちろん、孤独を紛らすために、
図書室に通ったことが起因してるんだけどさ。
そして、これから話す出来事において、
その趣味がそこそこ役に立ったんだよ。
96:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 16:44:08.20 ID:JuWNwpCZ0
かつての僕は、恋人のことを、完全に分かった気でいたな。
五年間、ずっと一緒にいて、実に色んなことを話したからね。
ところがさ、案外、僕の知らない面も存在したみたいなんだよ。
その日も僕は、妹に踏まれて目を覚ましたんだ。
「図書館に本返すから」と妹は言った。「市民の義務だから」
まあ、午後四時にぐっすり寝てる僕も悪いんだけどさ。
図書館につくと、妹は本の束を抱えて歩いて行った。
辺りは早くも薄暗くなってて、街灯が点きはじめてたね。
97:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 16:52:29.83 ID:JuWNwpCZ0
僕は駐車場のすみっこ行って、煙草に火を点けた。
そこは物置みたいになってて、色んなものが散乱してたな。
錆びた自転車とか、ポールとか、柵とか、そういうもの。
ガラクタの中で、室外機だけが辛うじて息をしていた。
僕は柵に腰かけて、煙草を吸っていたんだ。
なぜかそこには、きちんとした灰皿があったからね。
二周目の僕は、こういう寂しい場所にくると、
心の底から落ち込むような人間になってたんだ。
ふと見ると、こっちに向かって誰か歩いてくるのが見えた。
どうやら僕と同じ用らしくて、手には煙草を持っていて、
――そう、それが僕の元恋人だったわけなんだよ。
106:1:2012/10/20(土) 17:31:47.28 ID:JuWNwpCZ0
>>97はあれですね、「心の底から落ち込む」ではなく、
「心が安らぐ」の間違いですね。正反対です。くそったれ!
102:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 17:04:10.70 ID:JuWNwpCZ0
僕の元恋人はとっても礼儀正しい子だったからさ、
気まずそうな顔をしながらも、僕に挨拶したんだ。
相手が誰であれ、笑顔で挨拶してくれる子なんだよ。
僕も同じように挨拶しかえしたけど、内心、取り乱してたな。
彼女が喫煙者だなんてこと、僕は知らなかったし、
この図書館の利用者だってことも知らなかったんだ。
あれだけ話す機会を欲しがっておきながら、
いざとなると、何にも言葉が出てこないんだよ。
何か喋んなきゃ、って焦るばかりでさ。
なんとか会話を繋いで引きとめよう、ってね。
103:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 17:12:37.38 ID:JuWNwpCZ0
「本、借りに来たの?」と彼女は僕にたずねてくれた。
「僕じゃなくて、妹がね」と僕は正直に答えた。
「そっか、妹さんか。……君は本、読まないの?」
「そこそこ」と答えると、元恋人は嬉しそうな顔をした。
周りに本を読む人間が少なかったんだろうね。
それから僕たちは十分くらい、本の話をしたんだ。
他愛もない話だったよ。大した意味のない会話。
一周目の僕だったら、二秒で忘れるような会話さ。
でもさ、たったそれだけのことで、僕は、
嬉しさで胸がはちきれそうだったんだ。
この時間が、少しでも長く続けばいいって願ったよ。
104:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 17:21:55.14 ID:JuWNwpCZ0
「煙草、吸うんだね。意外だな」と僕が言うと、
僕のかつての恋人は、困ったような顔で笑った。
「彼にも秘密にしてるんだ。今の所、君しか知らない」
僕はその言葉を脳に刻みつけたね。
”君しか知らない”。実に心地よい響きだよ。
辺りが真っ暗になって、彼女は帰って行った。
僕はしばらく、彼女との会話の余韻に浸っていたな。
止まらない体の震えは寒さによるものなのか、
興奮によるものなのかは、分かんなかった。
こんなんで喜べるなんて、エコの極みだよね。
それに、このとき僕はまだ、自分のしている
致命的な勘違いには気づいていないんだ。
105:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 17:28:23.13 ID:JuWNwpCZ0
妹はすでに車で待機していて、僕が戻ると、
「五分の遅刻」と頭を五回たたいてきた。
一時間遅刻したら大変なことになってたと思うよ。
図書館を出てからしばらくして、妹が言った。
「おにいちゃん、さっきの女の人、仲良いの?」
「いや。僕と口をきいてくれるくらい、あの子が優しいってだけ」
「ふうん。じゃあ、私も優しいね。口きくから」
「違うな。僕たちは単に仲が良いんだよ」
「ええ、そうなの?」と妹は迷惑そうに言った。
107:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 18:04:05.46 ID:JuWNwpCZ0
街路樹や店先にイルミネーションが灯り、
いたるところでクリスマスソングが流れ、
駅前には巨大なモミの木が設置され、
いよいよクリスマスが近づいてきていた。
妹は四回目の家出から無念の帰宅をして、
僕は駅にあるカフェでコーヒーを飲んでいた。
そこからだと、広場の様子がよく分かるんだ。
そして駅前の広場は、僕の元恋人が、
待ち合わせによく使っていた場所なんだよ。
僕はそこで、彼らが落ち合うのを見張っていた。
この日は、ちょっと特別な日なんだ。
110:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 18:17:52.71 ID:JuWNwpCZ0
言い忘れてたけど、僕の誕生日って言うのは、
十二月二十四日、クリスマスイブなんだよ。
そして僕の恋人は、クリスマスと誕生日が被るのは
嫌だということで、一週間前に祝うようにしていたんだ。
ドッペルゲンガーも僕と誕生日が同じらしくて、
lクリスマスツリーの下で恋人と落ち合った彼は、
綺麗に包装されたプレゼントを受け取っていた。
こんな立場じゃなきゃ、微笑ましい場面だったんだど、
僕はそれを見て思わず頭を抱えたね。
111:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 18:26:39.97 ID:JuWNwpCZ0
それでね、ふと横に目をやると、おかしいんだよ、
僕とまったく同じように頭を抱えている人がいたんだ。
そいつをよく見ると、知らない顔じゃなかった。
というのも、その子は小中高と同じ学校に通っていて、
さらには大学の学部まで一緒の子だったから、
人の顔を覚えられない僕でも、さすがに覚えてたんだ。
でも、あんまり口をきいたことはなかったな。
だって、向こうも僕には言われたくないだろうけど、
ひどく話しかけづらい子だったんだよ。
彼女の視線は、僕と同じで、駅の広場に向いていた。
そりゃあ、ここにいたら、他に見るものはないんだけどさ、
彼女を見ているうちに、僕の中で何かが引っかかったんだ。
112:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 18:29:17.39 ID:ogMOPFN+O
ほうほう
113:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 18:39:16.67 ID:JuWNwpCZ0
人ってさ、一緒にいる時間が長いと、
口癖とか仕草とかが伝染るじゃないか。
だから、一周目において、僕と恋人の間には、
いろんな共通する「癖」があったんだ。
そのとき隣の女の子がやっていた、
左手で後頭部の髪をやたら触る仕草は、
偶然にも、僕から恋人に伝染った癖の一つだった。
なんだか、すごく懐かしい感じがしたね。
116:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 18:59:52.07 ID:JuWNwpCZ0
彼女が顔を上げたとき、僕らの目が合った。
その一瞬で、どうしてか、僕は彼女に関して、
色んなことが分かっちゃったんだ。
その一。彼女は僕の代役に恋している。
限りなく似たような感情を抱いていると、
目を見ただけで、分かるものなんだよ。
その二。彼女は僕の元恋人に嫉妬している。
たしかに、思いを寄せている人間と
あれだけ親密にされたら、そうもなるよね。
その三。彼女には”一周目”の記憶がある。
118:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 19:10:35.94 ID:JuWNwpCZ0
何ていうかさ、「やり直しにおける失敗」の
スペシャリストである僕から言わせるとね、
二周目で失敗した人間に特有の感情があるんだ。
隣にいる女の子から、僕はそれを感じ取ったんだよ。
そんでさ――これについては最初から
説明しておくべきだったんだろうけどさ、
実を言うと、僕が持つ一周目の記憶には、
いくらか致命的な欠陥があったんだ。
119:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 19:18:14.75 ID:JuWNwpCZ0
それは、「思い出し方に制限がかかっている」ってこと。
自分はこういう特徴の人間とこういう関係がある、
みたいなことはしっかり覚えてたんだけど、
実際の名前、顔、声みたいな具体的情報は、
いくら思い出そうとしてもはっきりしなかったんだ。
「表情が豊か」とか「日焼けしている」とか、
「大人しそうな名前」とか「目つきが悪い」とか、
そういう風には思い出せるのに、だよ。
でも、二周目の僕は、そのことを軽視していたんだ。
一周目の再現をするだけの二周目においては、
記憶に制限があっても、さほど支障はないように見えたからね。
それに、記憶ってのは、多かれ少なかれ、
はじめからそういう不確かな性質があるものだから。
121:名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 19:25:47.34 ID:JuWNwpCZ0
さて、僕の言わんとすることはもう分かると思うけど、
以上の情報をまとめると、導き出される結論は一つ。
隣にいる女の子は、僕のかつての恋人が、
人生のやり直しに”失敗”した姿なんだよ。
そう。席を奪われたのは、僕だけじゃなかったんだ。
僕が中学の頃に告白したのは見当違いの相手で、
殺人を犯してまで取り戻そうとした恋人は人違いで、
僕がいつも影から見ていた二人は、両方とも代役だったんだ。
そして僕の本物の恋人は、いつだって傍にいたんだよ。
145:名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 20:22:20.49 ID:0NqI+JUK0
かつての恋人が自分と同じような状況にあって、
同じ苦悩を抱えていると知ったとき、
けれどもね、僕は喜びはしなかったんだ。
いや、むしろ絶望を深めたと言ってもいい。
どうしてかと言うとね、たとえ隣にいるその子が、
僕の本当の恋人だったとしてもね、今僕が好きなのは、
より一周目の彼女に近い、”偽物”の方なんだよ。
僕が気にするのは「オリジナルかどうか」じゃなくて、
「一周目と同じ気持ちにさせてくれるかどうか」だったんだ。
変わっちまった本物には、もはや興味がないんだな。
147:名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 20:34:36.70 ID:0NqI+JUK0
それに、勘違いも十年も続けば、それはもう
本人にとっては修正しようがない事実なんだよ。
そして、僕の求める”偽物”の子が、そもそも僕とは
赤の他人だったということが分かって、僕はがっかりした。
こうなると、彼女と僕が結ばれる根拠は、いよいよ無いじゃないか。
僕が信じてきた赤い糸は、広場にいる彼女じゃなくて、
隣で頭を抱えている女の子と繋がっていたわけだからね。
しかし、見れば見るほど、本物の元恋人は、
僕と似たような変化を遂げていて、驚いたね。
二周目の自分を客観的に見てる気分だったよ。
あんまり良い気分じゃなかったな。
148:名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 20:44:49.87 ID:0NqI+JUK0
そういうわけで、運命の再会とはいかなかった。
寂しそうな目で広場を見つめる本物の元恋人は、
隣に誰か、温かい存在を必要としているように見えた。
うん、今度ばかりは、勘違いじゃなかったと思うよ。
けれども僕は、彼女に話しかけず、店を出た。
僕が必要としているのが彼女でないように、
彼女が必要としているのも、僕の代役の方だろうからね。
149:名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 20:58:45.16 ID:0NqI+JUK0
僕は街を当てもなく歩いた。そうしたい気分だったんだ。
どこもかしこもクリスマスムードでむなしくなったけど、
とことんそういう気分に浸りたい気分でもあったな。
考えてみると、色んなことが馬鹿馬鹿しかったね。
そもそも僕は、あの代役を殺す気でいたわけだけど、
本当にそんなことができる気でいたんだろうか?
そして奇跡的にそれに成功したところで、
その相手の子は、今の僕を好きになると、
本気で考えていたんだろうか?
だとしたら、頭がおかしかったんだろうな。
150:名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 21:02:38.45 ID:0NqI+JUK0
そういうわけで、僕はドッペルゲンガーの
殺害計画を諦めたわけなんだけどさ、
願いってのは、腹立たしいことに、
願うのをやめた頃に叶うものなんだ。
151:名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 21:07:59.95 ID:cfy7UGur0
な・・・んだと?
152:名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 21:12:02.59 ID:32fOe/5d0
これまた急展開!!
154:名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 21:50:20.71 ID:0NqI+JUK0
僕は頭をからっぽにしたかったんだ。
今まで以上に、色んなことを忘れたかった。
尾行する必要もなくなって、時間も余っていた。
それで、目についた短期アルバイトに、
片っ端から応募することにしたんだ。
毎日夜遅くにくたくたになって帰宅する僕を見て、
五回目の家出をしてきていた妹は、
「おにいちゃん、恋人でも出来た?」と聞いてきた。
今一番聞きたくない言葉だったね、まったく。
そんでね、どうせ予定もないのだからと、
年末までアルバイトを詰め込んだ僕だったけど、
ろくに内容の説明も読まなかったせいで、
クリスマス当日に、恋人の集まるデパートで、
抽選会の係をすることになっちまったんだよ。
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