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よわくてニューゲーム

 

45 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:50:52.56 ID:bAq3pyUe0

生活習慣というのはそうそう変わらないものだと思っている。
故に日々通学路を歩く彼女が最終的にどこかに消えれば気になる。
三日くらいは「忙しそうだなあ」で済んだから、まあいいのだが。
しかしもうかれこれ二週間くらい続いている。忙しすぎであろう。「僕と帰るのが嫌になったか」と思ったが見当違いだと思った。

いつもの別れ道の少し手前の道から別れるのだ。ほぼ変わりない。
それにあの彼女なら嫌悪感を示せばすぐに僕に言うはず。死ねと。
となれば、まずはそれとなく聞いていく所から話は始まっていく。

「ねえ。最近、忙しそうだ。なんか習い事でもはじめたのかな」

ここでまず僕が立てた予測と言えば妥当なところで習い事である。
スイミングにそろばん。それに学習塾等が該当するだろうと思う。
「今日塾だから」さも心から辛そうな雰囲気を醸す同級生も居る。

「いいえ。習うことなんて何もない。タイム・イズ・マネーよ」

小学生にしてはあまりにも現実的な金銭感覚の持ち主だと思った。
確かに彼女は何をやらせても素晴らしい成績を残すので納得した。

「最近は知り合いの家に行っているの。気にすることじゃないわよ」

 

 

46 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:51:27.32 ID:bAq3pyUe0

「そうなんだ」
彼女もまた母と同様に嘘をつくような性格ではないし、信じた。
なれば僕はそれ以上追求する余地はない。しても仕方がない。「ええ。だから、今日もここでお別れ。それじゃあ」

というわけで僕は二週間の高尚な悩みを一言で収束させていた。
僕は何を習うべきかと思ったがまず人間関係についてであろう。

しかし前述に「人の噂も七十五日」と言ったが、まさにこれである。
「忙しそうだ」からはじまり「それじゃあ」で日々が終わるのだ。
そんな日々も七十五日続けば立派な噂になってしまったのであった。

「なあ。お前。彼女。付き合ってないって言っただろ。本当か」

そりゃあ常日頃と言っていい具合に彼女は毎日消えていくのだ。
男ができただの中学生と付き合ってるだの言われても仕方ない。

「僕はそうだと思うけど。少なくとも付き合ってたら言うと思うよ」

お前だからなあ。あまりにも失礼な言葉を残し彼は去っていった。
仮に男がいたならば僕の姿を見て嘲笑するか安堵するであろうに。
まあ端から見ればブルドッグと飼い主と言える。もはやペットだ。

僕も気にはなっている。それに僕はブルドッグのように可愛くはない。

 

 

 

47 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:51:54.98 ID:bAq3pyUe0

僕は学校で別れる事になったその日はすぐに家に帰ったのである。
もちろんだが、放課後に残って談笑する友達がいないからである。
校庭に出ればボールの代わりに僕が蹴られる可能性があるからだ。「あれ」

母から書き置きで「油を買ってきて」とお使いを頼まれていたのだ。
きちんと購入し家への道程をゆっくりと歩いていた時のことだった。
ううんどうみても彼女である。マンションから出てきたようだった。

「こんなところで。奇遇」

と僕はそう声をかけてみたが「あ」と気不味そうな声をあげるのだ。
そこまでここから出てきた事に関して唸らなければいけないのかな。

「ああ。あなた。お使いの帰りかしら」

「そういうこと。君は?用事が済んだのかな」

「済んではないけど、日課が終わったってところよ」

そっか。僕はさも「見てませんよ」という声の抑揚でそう言った。
すると彼女は安堵したようにそうなのよ。そう告げ去っていった。
僕は油を抱え家に戻り、お駄賃が貰えることを、ただ願っていた。

なんとも浅ましい子供だったと言える。

 

 

 

48 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:52:29.78 ID:bAq3pyUe0

ようやくと言えばようやくだが話が動き出すのはここからである。
あの日以降から彼女はさり気なさを演出しつつ僕を避けるのである。
それを見て心が少し痛んだが、慣れているので気にはならなかった。
どちらかというと「ああ、ようやく嫌われてしまったか」と思った。そんなわけで僕は本来の居場所である家に引きこもることになる。

と言っても母が必死で働いているので僕はきちんと学校に行っている。
授業も受けるし、無視されようと時折暴力を受けようとも通っている。

恐らくここまで彼女の存在があったからこそ直接は結びつかなかったのだ。

いつも一緒にいる金魚の糞のようであろうとも、僕は彼女の友人だった。
なればそれをいじめたりすると彼女からの印象が悪くなるからである。
つまり最後のストッパーが外れた今、誰も僕に躊躇しないという事だ。

「お前。彼女に嫌われたんだろ。何かしたか。告白とかか。何だ」

蹴られる度に涙が滲んだが原因はどちらかというと痛みより言葉である。
彼らは平然と彼女を守る騎士の如く己の行動を正当化しようとしていた。
まあもしかしたら何かしたのだろう。もしかしなくても原因は僕だろう。

「ただいま」

 

 

 

49 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:52:58.46 ID:bAq3pyUe0

「あんたさあ、やり返したっていいのよ。あたしが謝ってあげるから」
「いいんだ。きっと、僕は何かしたんだよ。わからないけど、何かを」「そう。あんたって、たまに本当にあたしの子が疑っちゃうとこある」

家に帰れば少し辛辣そうに聞こえる励ましを受けるとは思わなかった。
強い子ねえ。そう言って僕を抱きしめる母は少し涙ぐんでいたと思う。

「あんたはよくても、見てるあたしが、どうにかしてやりたくなるのよ」

「ごめん。まあ、まずいと思ったら、言う。そのときはどうにかしてよ」

「ええ。あたし、ろくでもない人間しか昔から人付き合いないけれどね」

つまるところ僕の鶴の一声で小学生数人が失踪するかもしれない。
母は夜の人間なのだ。そういう人が知り合いでもおかしくはない。
おまけにこのあまりある美貌に加えこれほどいい女と言えるのだ。

今度は逆に僕が彼らをいじめる引き金となりそうなのでしばらくは口を噤もう。

そんな僕を見かねたのか冷蔵庫で散々勿体無いと言っていた高級肉。
それを躊躇いもなく開封する母に尊敬の念を覚えつつもいただいた。
美味しいわねえ。うん。僕、もうしばらく生きれそうだよ。笑った。

笑うしかなかった。

 

 

 

50 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:53:24.66 ID:bAq3pyUe0

さて、いくら「遊んでいただけです」と言ってもあざだらけな僕である。
三者面談の際にも僕が母を愛し母も僕を愛していることを知っている。
ということはあざの原因は同級生によるものだと先生も確信するのだ。
日頃からあまりいいとは言えない待遇を受けていることも知っている。熱心な先生でよかったとは思うのだが、それが裏目に出てしまった。

僕の方でも日課となりつつあったいじめを先生が目撃してしまったのである。
推測は確信に代わって「熱心な指導」をその同級生やらに散々行うのである。
そして教室でも僕を黒板の前に立たせ注意喚起を行うのだが、これがまずい。

沈静化するのは、テレビドラマだとか映画の中だけである。現実は甘くない。

お礼参りと言うとがらが悪いが今度は見えない所でするようになるのだ。
校舎裏まで「友達です」と白々しい顔で連れてゆかれて、殴られるのだ。
逃げ出せることも時折あったが翌日に捕まればその分も加算されている。

となれば日々少しずつ暴力を受ける方が得策と判断し、僕はそれに従った。

だがいじめの形と言えばそれだけではない。無視だったりもそうである。
その点に関して言えば僕は慣れているので問題はない。教科書もだった。
彼らは知能犯的犯行で形あるものを汚したりはしないようになっていた。

というわけで、狙うは僕の腹であったり服の下ということになる。

 

 

51 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:53:58.72 ID:bAq3pyUe0

だがそんな生活も巡り巡れば慣れてしまうのが人間なのである。
精神的痛みは彼女ので最大攻撃力を誇っていたので辛くはなかった。
暴力に関してもあれだけ筋肉が傷つけられれば超回復さえするのだ。
小学生の最終月辺りはほぼ真顔で殴られていたと言っていいだろう。そして楽しくもなんともない卒業式が訪れる。

「みんなで笑いあった思い出」残念だが僕は主に笑われていたのである。
「手を繋いで助け合いました」手を繋いで校舎裏に連れて行かれました。
「先生たちの素晴らしい指導」のおかげで少し激化した気がしているが。

音楽の授業中は僕をゴミ箱に見立て消しカス投げ大会だった気がする。
なので校歌斉唱の際も見事に覚える暇などなくて歌うことはなかった。

卒業証書授与。少しこの世から卒業したいという気持ちもあった。
しかし母の姿を想像する度に僕は勇気を貰っていたため断念した。
何かしら母に恩返しするまではとても死ねない。死にたくはない。

そんなわけで適当な事を考えていれば呆気無く卒業式は終わった。

先生の声が聞こえた気がしたが僕は黙って白紙の寄せ書きを見て学校を出た。
学校から十数メートル位は離れた家屋の横の電柱に母がもたれて泣いていた。

「ごめんなさい」

 

 

 

52 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:54:36.56 ID:bAq3pyUe0

「あんた、全然楽しそうじゃなかった。そりゃ、そうだよねえ」
「まだ、このあざも消えないんだもん。楽しくもないわよねえ」「あたし、反省してる。何もできなかった。本当ごめんなさい」

何を言っているのか。母が謝るところなど、どこにもないであろうに。
日々呑みたくないハゲと顔を合わせ談笑しつつ朝には疲れ果てている。
預金通帳に頭を抱え月々支払う借金の欠片。さらに僕の養育費だって。

身も心も壊れそうなのは母ではないか。謝るのは僕のほうだろう。
「生まれてきて」言葉にしそうになったが、僕は押し留めていた。

「いいんだ。僕は強いから。この母親にして、子ありなんだ。どう?」

「それに、まずいと思ったら言うって言ったでしょ。僕まだ余裕だよ」

ごめん。ごめん。謝る母を僕は見ていられなかった。怒りがわいてきた。
当然自らに対してだった。ああ、どうして涙させねばならないのか、と。

「ご飯でも、食べに行こっか。あんまり、高いのは勘弁して」

ようやく泣き止んだ母は、僕の手を取り、明るい声を出して言った。
うん。僕は微笑し、そう言った。いつまでも泣かせてはおけないし。

それに、僕はいい男になるらしいのだ。もてるまで、とても死ねない。

 

 

 

53 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:55:02.89 ID:bAq3pyUe0

そんな僕もそろそろ中学生である。ぴかぴかではないのだが。
立派な服に袖を通し心から喜んでいた僕を嬉しそうに見ていた。
しかし母はあの日以降から少し気弱になってしまったと思った。「それじゃあ、行ってきます」

「ごめん。仕事だから、行けないの。写真は買うから、言って」

「うん。できるだけ多く写れるようにするよ。頑張ってみる」

何を頑張るのよ。そう言って笑ってくれるだけで僕は幸せだった。
人を泣かせたり悲しませたりする男などは、いい男ではないのだ。
そしてやはり気になるのはクラスである。彼女と同クラスだった。

彼女の姿を探すと、目があった瞬間には背を向けられていた。

ううん。落胆してみるも、いつものことだよなあ。そう思った。
色々な小学校から集まった彼らは、異種交流会のようであった。
無論僕は異種の中の異種であるので交流などできはしなかった。

そんな僕は不幸中の幸いを手に入れた。

 

 

 

54 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:55:30.90 ID:bAq3pyUe0

 あと 18144000 秒です。
  ニア ・おわる

 

 

 

55 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:56:14.42 ID:bAq3pyUe0

他人の印象とはそれまた違う他人の印象となり得るのである。
結論から言うと、いじめと呼ぶべきものは殆どなくなったのだ。
小学校の同級生が「あいつ気味悪い」と話していたそうなのだ。
それは連鎖し尾ひれまでつき、僕を敬遠するようになっていた。それを教えてくれたのは中学三年生になった時の国語教師であった。

そんなわけで僕はまあいじめられることも構われることもなくなった。
なんだか寂しいが昔よりずっとましな生活をしているとしみじみ思う。

その時になればもう既に母は再び活気を取り戻していた。香水くさい。
それを告げると「石鹸の匂いさせてる女よりずっとましよ」と言った。
男が好きな匂いをつけるより自分の好きな匂いをつけていたいらしい。

ここからさらに母の饒舌ぶりは加速していく。

だが納得である。好かれようとするより、凛としている方がかっこいい。
そんな母の姿を男性は誉めそやすのだからそれは確かにそうなのだろう。
「あたしあんたみたいないい男と結婚したいわ」と続けてとんでも発言。

「近親相〇。吐き気がしてくる。でも、あんた後三十年でもてるわよ」だ。
人生を二倍し、プラス五年でようやくもてだす僕の人生はなんなのだろう。

人生は難しいものであると悟った十五の夜であった。

 

 

 

56 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:56:49.52 ID:bAq3pyUe0

さて近親相〇はどうでもいいので本題の国語教師の話である。
クラスで浮いているやらを気にして帰りにご飯に誘ってくれたのだ。
「誰にも言うんじゃねえぞ」と念を押され、僕は笑って頷いていた。「お前は、よく死んでねえよな。俺だったら、死にたいと思う」

ラーメン屋について開口一番にこれである。教師を疑うほどだった。
「お前にチャーシューテロしてやる」と大量にトッピングを貰った。
油しか浮いていないラーメンを啜りながら先生は美味そうに言った。

「そういえば、お前。同じクラスの。誰だっけ。あの美人だよ」

「なんだっけなあ。足細くてきれいだよなあ。太ももすげえわ」

「それに頭いいんだぜ。ううん。ああ、結婚。できねえかなあ」

本当に教職員なのだろうか。担当クラスの生徒の名前は覚えてほしい。
恐らく彼女の事なのだろう。名前を告げると思い出したように言った。

「お前。あいつと仲いいんだろ。あいつ、普段なにしてんだ?」

 

 

 

57 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:57:27.00 ID:bAq3pyUe0

「わかりません。ええと、もう一年以上話していないんですよ」
それを聞くと、気管に詰まらせたのか、げほげほと咳をしていた。
何がおかしいのか。ううん。先生の意図が分からず、聞いてみた。「まあ、小学校から中学校に入るとき、子供の話とか、聞くわけよ」

「交流会みたいなもんだな。この辺の小学校教師とは、懇意なんだ」

「で。お前が入ってきて、俺は気になった。ああ、いじめかよ、と」

いじめかよとは率直だが間違っていないので何も言えない僕だった。
「ああ、んでな」と話を続ける先生に耳を傾けながらも頷いていく。

「仲いいって聞きゃ、あいつだ。だからあいつにお前の事を聞いた」

「するとだ、頬染めて、いらんことまでべらべら喋りやがるんだぜ」

意味がわからない。それだと彼女が僕に好意を抱いているようではないか。
あり得ない。僕がそう呟くと彼も同意していた。人に言われ少し傷ついた。

「ああ、で、まあお前の事は今日わかった。問題は次だ。あいつだ」

「あいつ。毎日毎日、どこほっつき歩いてるか、本当に知らないか」

 

58 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:58:04.96 ID:bAq3pyUe0

「これは、親に聞いた話だ。言うなよ。あいつ、毎日遅く帰ってきやがるらしい」
「毎日毎日。休みの日だろうと学校だろうと、病気だろうと構わずにな。毎日だ」「まあ、あの顔だ。男がいてもおかしくない。が、誰からもそんな話は聞かない」

それを聞いたとき、僕は思った。あのマンション。あそこなのではないか、と。
だが。病気であろうと毎日。それは、日課の域を遥かに超えているではないか。
はっきり言って、異常だ。何が彼女をそうさせる?狂っているとも言っていい。

「男ってのは、お前かとも思った。が、違う。なら、誰だ。何をしに何処へ行く?」

「何回か、後をつけてみたらしい。どうにも、気付かれて途中で撒かれるんだとよ」

「人を撒きまでして、病気だろうと何処かへ通う。わけがわかんねえ。意味不明だ」

背筋に薄ら寒いものを感じた。あの彼女が成し遂げようとしている事がわからない。
彼女は何を隠している?どうしてそのような事をするようになったのか。いつから。
いつから。そうだ。彼女が変わったのは、僕のせいなのではないか。そう直感した。

もし。

自意識過剰ならそれでいい。でも、そうではなければ、何がある?
思い出せ。変わる前の日の事を。彼女は僕に、何と言ったのかを。
そして、僕は彼女に、なんと言ってしまったのかを。何もかもを。

『―――――なら、人生をやり直せたら、だなんて。思わないかしら』

 

 

59 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:58:31.18 ID:bAq3pyUe0

「先生」
「何か思い出したか」「笑わないで聞いてほしいんです」

先生は驚いているようだった。僕の雰囲気が変わった事に勘付いたのか。
低い声で「ああ。絶対だ」そう言い、ゆっくりと思い出し、声を出した。

「都市伝説を、知っていますか」

僕はこれまでの事を彼に語った。概ね人生の半分くらいのことだろう。
あの豪邸の事も。部屋の事も。人生を三回やり直せる部屋の事も全て。

「………」

関連性があるかどうかは分からない。けれど、これが唯一の情報だった。
僕の表情に釣られてか、突飛な話を真面目に聞いてくれているようだ。

「なら、お前が言いたいのは。あいつが、人生やり直そうとしてる、ってか」

「それに、都市伝説のマンション。情報とは合致する。そういうことだと?」

「そうかもしれない、という話です」

 

 

60 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:58:58.60 ID:bAq3pyUe0

「場所は、覚えてるか。豪邸はいい。関係あるかは分からないからな」
「マンションですか。覚えています。今も、前を時折通っているので」「そうか。住所分かるか?いや、いい。お前は、行ってみる気あるか」

人生を三回やり直すことのできる部屋。そこに僕が行く。存在するのか?
だが。豪邸だ。異常な部屋が一つあれば、二つあってもおかしくはない。

「行きます。僕も、彼女が気になるんです。どうしてでしょうか」

「そりゃ、惚れてるからじゃねえのか。幼馴染なら、初恋とかよ」

「初恋。いまいち、今の僕にはぴんと来ないなあ。どうなのかな」

「案外、小さい頃に約束した、とかよ。ベタなの、あるかもだぜ」

「僕の顔を見てください。そこから答えは察していただきたいな」

ああ、お前のどうだへったくれはどうでもいいからよ。なんだか酷い。
制服で行くのはまずい。休み、お前時間あるか。暇だろ。ひどすぎる。
分かりましたと僕は頷き週末の午前十一時に駅前で待ち合わせをした。

「じゃあ、週末に。今日はごちそうさまでした」

 

 

61 ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 22:59:33.01 ID:bAq3pyUe0

そんなわけで彼女を気にしてはみたがいつも通り避けられる。
昔より避ける能力があがっているようにすら思える。上達なのか。
学校が終わると、すぐに、今日もそそくさと教室を後にしていた。
そして僕は自動的に人に避けられる。これは天然ものだと言える。「お前。役にたたねえな。すげえぞ。そこまで行くとそれしか言えねえ」

「ありがとうございます。ご飯いただきます。美味しそうですねえこれ」

午前十一時に着くと「美味い飯連れてってやるよ」と言われ着いていった。
僕は目を輝かせながらついていくとファミレスであった。期待してたのに。
しかし美味しい。母の料理の方が美味いが、これもこれで非常に美味しい。

「すっからかんだ」

先生が二人で約三千円と少しの会計を終え、財布を見て彼も落胆していた。
「教師って給料どうなんですか」尋ねると「転職したい」そう答えていた。
僕は教師になるのはやめた。それでなくても、頭はずいぶんと悪いからだ。

「腹も膨れただろ。今日の給料だ。しっかり働けよ。じゃなきゃ、俺が怒られる」

そりゃあ学校でも圧倒的なくらいな才色兼備の彼女がろくでなしになれば怒られる。
彼は自らの立場も危ぶんでいるようだが同じく心配している様子も少し察していた。

「わかりました。ええと、こっちです」

 

SS, 名作

Posted by wpmaster