鍋を探して、水を入れて、火にかける
沸騰するのを待ってる間、買ってきた冷えピタをカドワキさんに渡し
スポーツ飲料をコップに入れて居間のテーブルに置いた
カドワキさんは「ありがと…」と言いながらグッタリしていた
本当に朦朧としている様子
俺はありがとう、と言われることが何だか嬉しくて
こんな状況ながら、少しだけときめいていたんだ
528: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:10:08.45 ID:4WWO0I6y0
そうこうしてるうちに鍋の中が沸騰して、お粥が完成した
俺「お粥できました。卵は無理だろうから、普通のやつです」
俺「海苔とか、塩とかで味つけましょうね」
カドワキ「ありがと…」
俺「いえいえ」
そう言って、居間のテーブルにお粥と、塩を並べた
そして、しばらくぼーっと出来上がったお粥を眺めているカドワキさん
529: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:17:10.51 ID:4WWO0I6y0
俺「食べられそうにないですか?」
カドワキ「うん…」
俺「まいったな…少し、頑張ってみましょう」
そう言って俺もゆっくり待つことにした
居間を見回していると、わきにピアノがあるのに気付いた
さっきの写真は、やっぱりカドワキさんだったのか…
気づけば、そのピアノの上に幾つかの盾やトロフィーも並んでいた
530: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:20:23.21 ID:4WWO0I6y0
しかし、こんな状況下でさすがに
「カドワキさんピアノ弾くんですかー?」なんて話しかけることもできず
自分の中で納得しただけだった
趣味でピアノ弾くのかな…なんて一人で思っていたら
カドワキ「だめ…だめだ…」
と話しかけてきた
俺「え、やっぱり無理ですか?」
カドワキ「食べる…どころじゃない…」
531: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:23:02.45 ID:4WWO0I6y0
参った、これが食べられないなら、とうとう急いで病院に行かないと
俺「少しも無理ですか?」
カドワキ「ん…」
そして喋るのすら辛そうになってきている
俺「分かりました。カドワキさん、外に車ありましたね?」
カドワキ「え…はぁ…」
俺「病院行きましょう」
533: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:30:36.82 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「あ…え…」
俺「いやいや、悩んでる暇ないです。」
俺「大丈夫です、安全運転で連れてってあげますw」
そう言うと、カドワキさんの顔が少しだけほころんで、
「わかった…」とだけ俺に言った
俺「財布はどっちでもいいですけど、保険証だけは持ってくださいね」
カドワキ「うん…」
もうフラフラだったので、俺が肩を貸して外に出て、車に乗せた
535: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:47:59.24 ID:4WWO0I6y0
正直、俺はペーパードライバーに近かったので、かなり緊張した
ただ、助手席で今にも崩れ落ちそうなカドワキさんを乗せていたので
そんな事は言い出せなかった
幸い、一度こっちに来てから消化不良で内科に行ったことがあったので
病院の場所だけは頭に入っていたんだ
カドワキさんを安心させたかったので、
「すぐに着きますよ」とか言いながら車を発進させた
536: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:55:54.81 ID:4WWO0I6y0
道中、俺が車の運転に集中していたのもあって、沈黙が続いた
すると、熱に浮かされたのか、カドワキさんが喋り出した
カドワキ「良かった…」
俺「はい?」
カドワキ「ありがとう…」
シートを倒して背もたれに倒れかかっているカドワキさんが
必死になって喋っていた
俺「無理して喋らなくていいんですよ」
585: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:37:30.41 ID:1qYjTR8a0
カドワキ「いいの…あのね…」
俺「はい…」
熱気が溜まって蒸し暑い車内で、カドワキさんは必死に喋る
カドワキ「頭のこれ…が」
俺「ええ」
カドワキ「ひんやりしてて…気持ちいい」
俺「ああ、冷えピタですね。買ってきて良かったw」
586: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:39:59.89 ID:1qYjTR8a0
カドワキ「昔…さ…」
俺「はいはい」
カドワキ「よく…お父さんがね…」
俺「ええ」
カドワキ「氷枕を…作ってくれて…」
俺「氷枕ですか。」
カドワキ「すごく…嬉しくて…」
俺「へえ、そうなんですかw」
588: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:43:37.80 ID:1qYjTR8a0
カドワキ「なんだか…それをね」
俺「はい。」
カドワキ「思い出しちゃった…」
俺はその言葉に、何も言い返せなかった
信号に止まって横を見ると、ぐったりして椅子に寝ているカドワキさんがいる
カドワキ「本当はすごく…不安で…」
俺「はい」
カドワキ「嬉しい…よ」
589: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:46:35.16 ID:1qYjTR8a0
俺「嬉しいって…何がですか?」
カドワキさんは、そんな俺の言葉も意に介さず続けた
カドワキ「誰かと一緒だと…」
カドワキ「こんなに嬉しいんだね…」
俺はその言葉に胸がきゅんとしたが、何も言えず
そして、カドワキさんもそれだけ言うと
疲れてしまったのか、まったく喋らなくなった
590: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:50:41.95 ID:1qYjTR8a0
しばらく車内は沈黙のまま病院に向かった
カドワキさんのお父さんはどんな人なんだろう?
さっきの写真の人?それにしても何故食べ物くらい買ってこないのか?
今はお父さんは家にいないのか?
いろんな考えが頭を渦巻いた
そして小十分車を走らせると、病院に着いた
ドアを開けて「さ、行ける?もう大丈夫ですよ」と言ってカドワキさんの手を取る
カドワキさんはもう限界のようで
無言のまま俺に手を取られ、病院に入った
591: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:56:24.00 ID:1qYjTR8a0
まあ予想通りというか、カドワキさんは典型的な風邪だった
しばらく何も食べてないと伝えると、点滴を打つことになったので
俺はベッドで朦朧としてるカドワキさんに
「これでもうバッチリですね。」と話しかけた
するとカドワキさんは寝たままこちらを見上げて、口元だけで笑ってみせた
それを見て、これならもう安心だな、と気が抜けた
点滴が終わるまで駐車場に戻って煙草を吸う事にした
592: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:21:03.50 ID:1qYjTR8a0
1時間ほど経って、カドワキさんを迎えに行く
相変わらずフラフラな状態は変わらなかったので
病院のお金と薬代は、俺が立て替えた
俺が腕を引いて、カドワキさんを車まで連れて行く
俺「点滴もしたし、これでひとまずは安心です」
するとカドワキさんは笑顔になって
「ありがとう」とだけ言った
593: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:24:45.94 ID:1qYjTR8a0
帰りの車も、カドワキさんは点滴を打って眠くなったのか終始無言だった
俺も、負担にならないようにゆっくり運転して、黙って帰った
家に着いて、カドワキさんを部屋まで連れて行く
カドワキさんはやはりよっぽど辛いのか、着替えることもなくベッドに倒れ込んだ
俺「もらった薬はここに置いておきます」
カドワキ「うん…」
俺「ゼリーとかバナナがあります。夜になったら食べて、ちゃんと薬飲んでくださいね?」
カドワキ「うん…」
595: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:27:06.63 ID:1qYjTR8a0
俺「ここにタオルも置いときますね。汗かいたらちゃんと拭くんですよ?」
カドワキ「うん…」
俺もすっかり安心して、帰ろうとする
俺「もう大丈夫です。何かあったら、電話してください」
そう言って部屋から出て行こうとした
カドワキ「あ…」
カドワキさんが不意に俺を呼び止めた
596: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:31:05.21 ID:1qYjTR8a0
俺「どうかしました…?」
カドワキ「まだ…その…」
とてもか細い声で話しかけてくる
カドワキ「氷…枕…」
俺「え?でも…そんな作り方とか知らないですし…」
カドワキ「や…やだ…」
正直驚いた 普段強気なカドワキさんが
こんな風に駄々をこねてわがままを言うなんて、想像がつかなかった
598: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:37:17.95 ID:1qYjTR8a0
カドワキ「台所の下に…あるから…」
俺「は…はあ…」
それを無視することもできず
俺は言われるまま、台所下の収納を探す
すると、グレーのゴムで出来た枕?が見つかる
これに氷水を入れればいいんだな、と分かり
急いで水道水と冷凍庫の氷を突っ込んで、氷枕をこしらえた。
600: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:43:25.88 ID:1qYjTR8a0
このまま頭を乗せたら冷たかろう、と思って
台所にあったタオルを巻いて、俺特製氷枕の完成だ
それを急いでカドワキさんの待つ部屋に持っていく
部屋に戻ると、カドワキさんはもうグッスリ眠っていた
そのまま起こさないようにゆっくり頭を持ち上げて
枕を氷枕に入れ替える
少し揺らしてしまったが、一向に起きる気配はなかったw
601: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:49:05.96 ID:1qYjTR8a0
さっきまでとても辛そうにしていたのが、氷枕に入れ替えて
より一層心地よく眠っているように見えたので
俺は嬉しくなって、一人で「良かったね」と呟いてしまった
そのまま「薬はここに置いときます。ちゃんと食べて飲んでね。」
というメモだけ残し、俺はカドワキさんの家を後にした
できる事なら、もう少し寝顔を眺めていたかったけど
俺が宿を出てから、実に2時間以上が経っていた
602: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:12:57.68 ID:aKJ0yOno0
俺はこの間、宿に連絡するのをすっかり忘れていた
いくら暇な時間帯とは言え、無断の長時間外出は許されない
そのことを、宿に戻ってから気付いたのだ
玄関から入ると、番台に親父さんが立っていた
親父さん「おかえり。どこに行ってたの?」
俺「すいません…全然連絡もなしに外に出て行ってしまって…」
親父さん「さすがに困るよ。最近、おかしいんじゃないのかい?」
604: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:16:11.82 ID:aKJ0yOno0
普段優しい親父さんも、この時ばかりはだいぶ怒っていた
親父さん「仕事なんだから…許されないよ、こんな事」
俺「本当に、すいません…」
もうだめだと思った
カドワキさんとのひとときの時間の代償に
俺は今日で終わりなんだなぁって思いもした
それだけ、無責任な事をしたんだって、自覚してたんだ
605: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:19:03.77 ID:aKJ0yOno0
親父さん「…で、どこに行ってたの?」
俺「はい…?」
親父さん「ワケがあるんでしょう。君が理由もなくそんな事しないって知ってるから。」
親父さん「話してよ。」
親父さんは、厳しい表情をしながらも、俺の事を見つめて
俺の言い分を聞こうとしてくれた
それで、俺は勇気を持って話そうと決心した
606:名も無き被検体774号+:2013/04/11(木) 00:20:53.61 ID:BK9sefz3P
ええ話や
607: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:21:55.46 ID:aKJ0yOno0
カドワキさんが死ぬほど体調を崩して、苦しんでいたこと
俺はいたたまれなくなって、全てを投げ打って助けに行ってしまったこと
普通の大人なら、到底聞き流して「理由」とも捉えてくれない事を
俺は一生懸命に親父さんに伝えた
すると、親父さんも玄関の方に出てきて、煙草を吸い始めた
親父さん「なるほどね…」
親父さんは固い表情を保ちながらも、俺に「〇〇君も吸えば?」
と優しく促してきた
609: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:24:48.79 ID:aKJ0yOno0
促されるまま、俺も煙草に火をつけた
親父さんは厳しい表情のまま、淡々と話を続けた
親父さん「なるほどね…でも、ダメだろ?仕事なんだから」
俺「そうですよね…」
親父さん「でもさ」
俺「え?」
610: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:28:16.78 ID:aKJ0yOno0
親父さん「困ってる人を見ると、ほっとけない。」
親父さん「誰かの力になりたい気持ちは止められない。」
俺「え…?」
親父さんは粛々と語り続けた
親父さん「そうだろ?」
俺「はい、そうです…」
611: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:31:19.11 ID:aKJ0yOno0
親父さん「そんでもってさ」
親父さん「〇〇君は、カドワキさんの事が大好きだ、だろ?」
俺は突然の指摘に思わず吹き出しそうになった
でも、それは間違いなく本当の事だったんだ
俺「大好きです」
俺が親父さんの方を見て真剣にそう言うと、親父さんは大声で笑い出した
親父さん「やっぱりかw」
612: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:34:19.85 ID:aKJ0yOno0
親父さん「今回の件は、事が事だし、大目に見るよ。」
親父さん「でも、次はないからね」
そう言うと、親父さんは俺の肩を叩いて「恋する少年!」
と言って笑ってみせた
その瞬間、俺の中で鬱屈として、刻々と溜まっていた何かが一気にはじけて
俺はどうかしたのか、本当に何故か分からないが、
その場で涙を流して泣いてしまった
613: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:37:55.93 ID:aKJ0yOno0
大の24の男が、古びた宿の玄関で涙をこぼして泣いている
その光景は、はっきり言って相当痛いものだったろうな
でも、俺はそんな温かい言葉をかけられてしまって、本当に崩れてしまった
ちょっとでも、こんな仕事辞めてやる、と思っていた自分が情けなくて
もう、本当に言葉にできない感情だった
俺が泣いているのを見て、親父さんは笑うのを辞めて
「なんか辛かったみたいだな」と優しく頭を叩いた
615: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:43:08.95 ID:aKJ0yOno0
どうしようもなくなって、子どものようにただ涙を流すだけの俺
親父さんはそんな中でもまったく動揺しなかった
親父さん「溢れる涙も青春だな」
俺はボロボロ泣いてしまって、上手く返答ができない
親父さん「歳の割に◯◯君は本当に子どもだね。子どもだよ」
親父さん「でも大丈夫さ」
親父さん「それでいて凄くひたむきだから。」
616: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:46:04.56 ID:aKJ0yOno0
親父さんはそう言ってニッコリ笑うと、そのまま奥に入っていった
「ひたむきだ」
そんな事を言われたのは人生で初めてで、俺は今でも忘れない
この時の親父さんの言葉があったから、今の俺もあるんだと思う
こんなクズの俺の事を、そんな風に思ってくれる親父さんに出会えたことは
本当に、俺の人生という人生を大きく変えてくれた
617: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:47:00.86 ID:aKJ0yOno0
今日はここで落ちます
続きはまた明日書きます
見てくれてる人ありがとう
なんだかんだ言ってもう佳境なので…
620:名も無き被検体774号+:2013/04/11(木) 02:24:58.83 ID:mZfl/fcW0
追いついた!
続きが楽しみだ
668: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:05:29.08 ID:kppVQiBj0
こんにちは
お久しぶりです
遅くてごめんなさい
続きを書いていきますね
670: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:09:31.97 ID:kppVQiBj0
カドワキさんが倒れた一件以来
俺はまたやる気というか、エネルギー?みたいなものを取り戻して
一生懸命働くようになっていた
でもあれから、カドワキさんから特に連絡がなくて
もういいんですか?みたいなメールを打っても返信がなくて
俺はけっこう心配していた
671: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:12:19.68 ID:kppVQiBj0
まったく連絡もしないほど不義理な人でもないだろうし
かと言って連絡もないし
休んだ分仕事も忙しいのだろうか?なんて考えてた
そろそろ流石に治ったろうな…と思っていた頃
宿の仕事が一通り終わって一息つく時間帯
確か夜の9時か10時くらいだったと思う
部屋でゆっくりしてたら呼ばれたんだ
672: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:26:03.21 ID:kppVQiBj0
親父さん「〇〇君、お客さんだよ」
そう言ってニコニコしながら親父さんが来た
俺にお客さん?と思ったけど、言われるまま玄関に行った
カドワキ「こんばんは…」
俺「あっ…」
カドワキ「こんな時間に、ごめんなさい」
俺「あ、いえ…」
673: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:30:04.92 ID:kppVQiBj0
カドワキ「この前は本当にありがとう…ございます」
俺「いやいや…もう、いいんですか?」
カドワキ「ええ、すっかり」
そう言うと、笑って小さくガッツポーズしてみせた
俺「そっか、よかったです本当に…」
カドワキ「あの…お金なんですけど…」
俺「ああ、それなら別にいいですよ」
674: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:33:43.46 ID:kppVQiBj0
カドワキ「アナタが良くても私が良くないんで…」
相変わらず、トゲのある言い方をしてくるw
でもそれ聞いてすっかり元気になったんだなって思えた
彼女は真剣に「診察台と薬代で…」と言いながら
小さなお財布から、お金を取り出して渡してくれた
俺「なんだかわざわざすいませんw」
カドワキ「いえいえ、こっちですから…」
675: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:41:50.07 ID:kppVQiBj0
カドワキ「いや本当、この前は突然…」
カドワキ「助かりました…ありがとうございました」
よっぽど悪いと思っていたのか、何度も何度もお礼を言ってくる
俺「いえいえ、本当に気にしないでください」
俺もひたすらそう返すしかなかった
俺「じゃ、お金も確かにもらったので…いいですかね…?」
カドワキ「あ、その…ちょっと待って下さい」
677: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:46:47.30 ID:kppVQiBj0
カドワキ「少し散歩にでも行ってみませんか…?」
俺「え?」
あのカドワキさんが、俺を呼び止めている
好きな人が呼んでいる!ドキッとしちゃったよw
カドワキ「その辺を…ぷらぷらと…」
気恥ずかしそうに、そう呼び止めてきた
俺「え、え、いいですけど…いいんですか?」
マジで焦って変な喋り方になってたかもしれない
678: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:49:29.59 ID:kppVQiBj0
カドワキ「や、やっぱりこんな時間だしアレですか…」
俺「あ、いえいえ、少し外の風浴びるのもいいんじゃないですか…w」
カドワキ「じゃあ…」
と言って、2人して玄関から出た
俺が玄関から出て行く瞬間、
番台の奥から親父さんが出てきて
ニコニコしながら俺のことを見ていた
679:名も無き被検体774号+:2013/04/14(日) 17:54:11.36 ID:zY7YW+oWO
親父さんええな~
680: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:57:29.58 ID:kppVQiBj0
俺は急いで外に出てきたので
たまたま玄関にあった下駄を履いてきてしまった
歩く度に、「カラン、カラン」と音が鳴った
その音が妙に響いて、歩きづらかったw
俺「うわー、なんだこれw変なの履いて来ちゃったなー」
カドワキ「え、いいじゃないですか」
683: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 18:04:32.99 ID:kppVQiBj0
カドワキ「涼しげで、良い感じです」
俺「えーw本当ですかー?w」
カドワキ「どうですかね?w」
なんて感じに笑いのタネになってくれたから、良かった
しばらく2人で、街灯もまばらな夜の道を歩いた
どこからともなく虫の音だけが聞こえた
家の中は暑いけど、外は本当に涼しげだった
684: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 18:08:13.00 ID:kppVQiBj0
俺「カドワキさんは、ピアノを弾くんですか?」
俺は気になっていた事を唐突に質問した
カドワキさんは一瞬「なんでそれを」みたいな表情をしたけど
すぐに納得して話し始めた
カドワキ「ああ…弾くというか…弾いてた、が正しいですかね」
俺「え、今は弾かないんですか…?」
カドワキ「いや、今も好きなんです…けどなんというか、弾く時間が…」
685: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 18:12:18.45 ID:kppVQiBj0
俺「ああ、忙しいんですよね…」
カドワキ「ええ、今日もさっき帰ってきたので…」
凄く寂しそうな顔になってしまっていた
俺「でも、トロフィーとかあったし、やっぱり上手なんですよね?」
カドワキ「ああ、あれは…」
俺「なんかそういう道を目指そうとか、考えなかったんですか?」
すると、カドワキさんはしばらく黙ってしまった
687: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 18:14:42.75 ID:kppVQiBj0
カドワキ「そんな風に思ったことも…ありましたね」
そう言って寂しそうに笑ってみせた
俺は、「じゃあなんで…」と言いかけてやめた
きっと何か理由があったんだろう
俺「俺、カドワキさんのピアノ聞きたいです」
そして思わず、こんな事を言ってしまった
カドワキ「え……」
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