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クズな俺でも夢を持った

 
527: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:06:02.36 ID:4WWO0I6y0
鍋を探して、水を入れて、火にかける
沸騰するのを待ってる間、買ってきた冷えピタをカドワキさんに渡し
スポーツ飲料をコップに入れて居間のテーブルに置いた

カドワキさんは「ありがと…」と言いながらグッタリしていた
本当に朦朧としている様子
俺はありがとう、と言われることが何だか嬉しくて
こんな状況ながら、少しだけときめいていたんだ

528: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:10:08.45 ID:4WWO0I6y0
そうこうしてるうちに鍋の中が沸騰して、お粥が完成した
俺「お粥できました。卵は無理だろうから、普通のやつです」
俺「海苔とか、塩とかで味つけましょうね」

カドワキ「ありがと…」
俺「いえいえ」
そう言って、居間のテーブルにお粥と、塩を並べた

そして、しばらくぼーっと出来上がったお粥を眺めているカドワキさん

529: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:17:10.51 ID:4WWO0I6y0
俺「食べられそうにないですか?」
カドワキ「うん…」
俺「まいったな…少し、頑張ってみましょう」
そう言って俺もゆっくり待つことにした

居間を見回していると、わきにピアノがあるのに気付いた
さっきの写真は、やっぱりカドワキさんだったのか…
気づけば、そのピアノの上に幾つかの盾やトロフィーも並んでいた

530: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:20:23.21 ID:4WWO0I6y0
しかし、こんな状況下でさすがに
「カドワキさんピアノ弾くんですかー?」なんて話しかけることもできず
自分の中で納得しただけだった

趣味でピアノ弾くのかな…なんて一人で思っていたら
カドワキ「だめ…だめだ…」
と話しかけてきた

俺「え、やっぱり無理ですか?」
カドワキ「食べる…どころじゃない…」

531: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:23:02.45 ID:4WWO0I6y0
参った、これが食べられないなら、とうとう急いで病院に行かないと
俺「少しも無理ですか?」
カドワキ「ん…」
そして喋るのすら辛そうになってきている

俺「分かりました。カドワキさん、外に車ありましたね?」
カドワキ「え…はぁ…」
俺「病院行きましょう」

533: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:30:36.82 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「あ…え…」
俺「いやいや、悩んでる暇ないです。」
俺「大丈夫です、安全運転で連れてってあげますw」

そう言うと、カドワキさんの顔が少しだけほころんで、
「わかった…」とだけ俺に言った

俺「財布はどっちでもいいですけど、保険証だけは持ってくださいね」
カドワキ「うん…」
もうフラフラだったので、俺が肩を貸して外に出て、車に乗せた

535: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:47:59.24 ID:4WWO0I6y0
正直、俺はペーパードライバーに近かったので、かなり緊張した
ただ、助手席で今にも崩れ落ちそうなカドワキさんを乗せていたので
そんな事は言い出せなかった

幸い、一度こっちに来てから消化不良で内科に行ったことがあったので
病院の場所だけは頭に入っていたんだ

カドワキさんを安心させたかったので、
「すぐに着きますよ」とか言いながら車を発進させた

536: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:55:54.81 ID:4WWO0I6y0
道中、俺が車の運転に集中していたのもあって、沈黙が続いた
すると、熱に浮かされたのか、カドワキさんが喋り出した

カドワキ「良かった…」
俺「はい?」
カドワキ「ありがとう…」
シートを倒して背もたれに倒れかかっているカドワキさんが
必死になって喋っていた

俺「無理して喋らなくていいんですよ」

585: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:37:30.41 ID:1qYjTR8a0
カドワキ「いいの…あのね…」
俺「はい…」
熱気が溜まって蒸し暑い車内で、カドワキさんは必死に喋る

カドワキ「頭のこれ…が」
俺「ええ」
カドワキ「ひんやりしてて…気持ちいい」
俺「ああ、冷えピタですね。買ってきて良かったw」

586: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:39:59.89 ID:1qYjTR8a0
カドワキ「昔…さ…」
俺「はいはい」
カドワキ「よく…お父さんがね…」
俺「ええ」

カドワキ「氷枕を…作ってくれて…」
俺「氷枕ですか。」
カドワキ「すごく…嬉しくて…」
俺「へえ、そうなんですかw」

588: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:43:37.80 ID:1qYjTR8a0
カドワキ「なんだか…それをね」
俺「はい。」
カドワキ「思い出しちゃった…」
俺はその言葉に、何も言い返せなかった

信号に止まって横を見ると、ぐったりして椅子に寝ているカドワキさんがいる
カドワキ「本当はすごく…不安で…」
俺「はい」
カドワキ「嬉しい…よ」

589: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:46:35.16 ID:1qYjTR8a0
俺「嬉しいって…何がですか?」
カドワキさんは、そんな俺の言葉も意に介さず続けた

カドワキ「誰かと一緒だと…」
カドワキ「こんなに嬉しいんだね…」

俺はその言葉に胸がきゅんとしたが、何も言えず
そして、カドワキさんもそれだけ言うと
疲れてしまったのか、まったく喋らなくなった

590: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:50:41.95 ID:1qYjTR8a0
しばらく車内は沈黙のまま病院に向かった
カドワキさんのお父さんはどんな人なんだろう?
さっきの写真の人?それにしても何故食べ物くらい買ってこないのか?
今はお父さんは家にいないのか?
いろんな考えが頭を渦巻いた

そして小十分車を走らせると、病院に着いた
ドアを開けて「さ、行ける?もう大丈夫ですよ」と言ってカドワキさんの手を取る
カドワキさんはもう限界のようで
無言のまま俺に手を取られ、病院に入った

591: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:56:24.00 ID:1qYjTR8a0
まあ予想通りというか、カドワキさんは典型的な風邪だった
しばらく何も食べてないと伝えると、点滴を打つことになったので
俺はベッドで朦朧としてるカドワキさんに
「これでもうバッチリですね。」と話しかけた

するとカドワキさんは寝たままこちらを見上げて、口元だけで笑ってみせた
それを見て、これならもう安心だな、と気が抜けた
点滴が終わるまで駐車場に戻って煙草を吸う事にした

592: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:21:03.50 ID:1qYjTR8a0
1時間ほど経って、カドワキさんを迎えに行く
相変わらずフラフラな状態は変わらなかったので
病院のお金と薬代は、俺が立て替えた

俺が腕を引いて、カドワキさんを車まで連れて行く
俺「点滴もしたし、これでひとまずは安心です」
するとカドワキさんは笑顔になって
「ありがとう」とだけ言った

593: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:24:45.94 ID:1qYjTR8a0
帰りの車も、カドワキさんは点滴を打って眠くなったのか終始無言だった
俺も、負担にならないようにゆっくり運転して、黙って帰った

家に着いて、カドワキさんを部屋まで連れて行く
カドワキさんはやはりよっぽど辛いのか、着替えることもなくベッドに倒れ込んだ
俺「もらった薬はここに置いておきます」
カドワキ「うん…」

俺「ゼリーとかバナナがあります。夜になったら食べて、ちゃんと薬飲んでくださいね?」
カドワキ「うん…」

595: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:27:06.63 ID:1qYjTR8a0
俺「ここにタオルも置いときますね。汗かいたらちゃんと拭くんですよ?」
カドワキ「うん…」

俺もすっかり安心して、帰ろうとする
俺「もう大丈夫です。何かあったら、電話してください」
そう言って部屋から出て行こうとした

カドワキ「あ…」
カドワキさんが不意に俺を呼び止めた

596: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:31:05.21 ID:1qYjTR8a0
俺「どうかしました…?」
カドワキ「まだ…その…」
とてもか細い声で話しかけてくる

カドワキ「氷…枕…」
俺「え?でも…そんな作り方とか知らないですし…」
カドワキ「や…やだ…」
正直驚いた 普段強気なカドワキさんが
こんな風に駄々をこねてわがままを言うなんて、想像がつかなかった

598: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:37:17.95 ID:1qYjTR8a0
カドワキ「台所の下に…あるから…」
俺「は…はあ…」
それを無視することもできず
俺は言われるまま、台所下の収納を探す

すると、グレーのゴムで出来た枕?が見つかる
これに氷水を入れればいいんだな、と分かり
急いで水道水と冷凍庫の氷を突っ込んで、氷枕をこしらえた。

600: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:43:25.88 ID:1qYjTR8a0
このまま頭を乗せたら冷たかろう、と思って
台所にあったタオルを巻いて、俺特製氷枕の完成だ
それを急いでカドワキさんの待つ部屋に持っていく

部屋に戻ると、カドワキさんはもうグッスリ眠っていた
そのまま起こさないようにゆっくり頭を持ち上げて
枕を氷枕に入れ替える
少し揺らしてしまったが、一向に起きる気配はなかったw

601: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:49:05.96 ID:1qYjTR8a0
さっきまでとても辛そうにしていたのが、氷枕に入れ替えて
より一層心地よく眠っているように見えたので
俺は嬉しくなって、一人で「良かったね」と呟いてしまった

そのまま「薬はここに置いときます。ちゃんと食べて飲んでね。」
というメモだけ残し、俺はカドワキさんの家を後にした
できる事なら、もう少し寝顔を眺めていたかったけど

俺が宿を出てから、実に2時間以上が経っていた

602: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:12:57.68 ID:aKJ0yOno0
俺はこの間、宿に連絡するのをすっかり忘れていた
いくら暇な時間帯とは言え、無断の長時間外出は許されない
そのことを、宿に戻ってから気付いたのだ

玄関から入ると、番台に親父さんが立っていた
親父さん「おかえり。どこに行ってたの?」
俺「すいません…全然連絡もなしに外に出て行ってしまって…」
親父さん「さすがに困るよ。最近、おかしいんじゃないのかい?」

604: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:16:11.82 ID:aKJ0yOno0
普段優しい親父さんも、この時ばかりはだいぶ怒っていた
親父さん「仕事なんだから…許されないよ、こんな事」
俺「本当に、すいません…」

もうだめだと思った
カドワキさんとのひとときの時間の代償に
俺は今日で終わりなんだなぁって思いもした
それだけ、無責任な事をしたんだって、自覚してたんだ

605: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:19:03.77 ID:aKJ0yOno0
親父さん「…で、どこに行ってたの?」
俺「はい…?」
親父さん「ワケがあるんでしょう。君が理由もなくそんな事しないって知ってるから。」
親父さん「話してよ。」

親父さんは、厳しい表情をしながらも、俺の事を見つめて
俺の言い分を聞こうとしてくれた
それで、俺は勇気を持って話そうと決心した

606:名も無き被検体774号+:2013/04/11(木) 00:20:53.61 ID:BK9sefz3P
ええ話や

607: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:21:55.46 ID:aKJ0yOno0
カドワキさんが死ぬほど体調を崩して、苦しんでいたこと
俺はいたたまれなくなって、全てを投げ打って助けに行ってしまったこと
普通の大人なら、到底聞き流して「理由」とも捉えてくれない事を
俺は一生懸命に親父さんに伝えた

すると、親父さんも玄関の方に出てきて、煙草を吸い始めた
親父さん「なるほどね…」
親父さんは固い表情を保ちながらも、俺に「〇〇君も吸えば?」
と優しく促してきた

609: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:24:48.79 ID:aKJ0yOno0
促されるまま、俺も煙草に火をつけた
親父さんは厳しい表情のまま、淡々と話を続けた

親父さん「なるほどね…でも、ダメだろ?仕事なんだから」
俺「そうですよね…」
親父さん「でもさ」
俺「え?」

610: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:28:16.78 ID:aKJ0yOno0
親父さん「困ってる人を見ると、ほっとけない。」
親父さん「誰かの力になりたい気持ちは止められない。」
俺「え…?」
親父さんは粛々と語り続けた

親父さん「そうだろ?」
俺「はい、そうです…」

611: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:31:19.11 ID:aKJ0yOno0
親父さん「そんでもってさ」

親父さん「〇〇君は、カドワキさんの事が大好きだ、だろ?」
俺は突然の指摘に思わず吹き出しそうになった
でも、それは間違いなく本当の事だったんだ

俺「大好きです」
俺が親父さんの方を見て真剣にそう言うと、親父さんは大声で笑い出した
親父さん「やっぱりかw」

612: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:34:19.85 ID:aKJ0yOno0
親父さん「今回の件は、事が事だし、大目に見るよ。」
親父さん「でも、次はないからね」
そう言うと、親父さんは俺の肩を叩いて「恋する少年!」
と言って笑ってみせた

その瞬間、俺の中で鬱屈として、刻々と溜まっていた何かが一気にはじけて
俺はどうかしたのか、本当に何故か分からないが、
その場で涙を流して泣いてしまった

613: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:37:55.93 ID:aKJ0yOno0
大の24の男が、古びた宿の玄関で涙をこぼして泣いている
その光景は、はっきり言って相当痛いものだったろうな
でも、俺はそんな温かい言葉をかけられてしまって、本当に崩れてしまった
ちょっとでも、こんな仕事辞めてやる、と思っていた自分が情けなくて
もう、本当に言葉にできない感情だった

俺が泣いているのを見て、親父さんは笑うのを辞めて
「なんか辛かったみたいだな」と優しく頭を叩いた

615: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:43:08.95 ID:aKJ0yOno0
どうしようもなくなって、子どものようにただ涙を流すだけの俺
親父さんはそんな中でもまったく動揺しなかった

親父さん「溢れる涙も青春だな」
俺はボロボロ泣いてしまって、上手く返答ができない

親父さん「歳の割に◯◯君は本当に子どもだね。子どもだよ」
親父さん「でも大丈夫さ」
親父さん「それでいて凄くひたむきだから。」

616: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:46:04.56 ID:aKJ0yOno0
親父さんはそう言ってニッコリ笑うと、そのまま奥に入っていった
「ひたむきだ」
そんな事を言われたのは人生で初めてで、俺は今でも忘れない

この時の親父さんの言葉があったから、今の俺もあるんだと思う
こんなクズの俺の事を、そんな風に思ってくれる親父さんに出会えたことは
本当に、俺の人生という人生を大きく変えてくれた

617: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/11(木) 00:47:00.86 ID:aKJ0yOno0
今日はここで落ちます
続きはまた明日書きます

見てくれてる人ありがとう
なんだかんだ言ってもう佳境なので…

620:名も無き被検体774号+:2013/04/11(木) 02:24:58.83 ID:mZfl/fcW0
追いついた!
続きが楽しみだ

668: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:05:29.08 ID:kppVQiBj0
こんにちは
お久しぶりです

遅くてごめんなさい
続きを書いていきますね

670: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:09:31.97 ID:kppVQiBj0
カドワキさんが倒れた一件以来
俺はまたやる気というか、エネルギー?みたいなものを取り戻して
一生懸命働くようになっていた

でもあれから、カドワキさんから特に連絡がなくて
もういいんですか?みたいなメールを打っても返信がなくて
俺はけっこう心配していた

671: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:12:19.68 ID:kppVQiBj0
まったく連絡もしないほど不義理な人でもないだろうし
かと言って連絡もないし
休んだ分仕事も忙しいのだろうか?なんて考えてた

そろそろ流石に治ったろうな…と思っていた頃
宿の仕事が一通り終わって一息つく時間帯
確か夜の9時か10時くらいだったと思う

部屋でゆっくりしてたら呼ばれたんだ

672: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:26:03.21 ID:kppVQiBj0
親父さん「〇〇君、お客さんだよ」
そう言ってニコニコしながら親父さんが来た
俺にお客さん?と思ったけど、言われるまま玄関に行った

カドワキ「こんばんは…」
俺「あっ…」
カドワキ「こんな時間に、ごめんなさい」
俺「あ、いえ…」

673: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:30:04.92 ID:kppVQiBj0
カドワキ「この前は本当にありがとう…ございます」
俺「いやいや…もう、いいんですか?」
カドワキ「ええ、すっかり」
そう言うと、笑って小さくガッツポーズしてみせた

俺「そっか、よかったです本当に…」
カドワキ「あの…お金なんですけど…」
俺「ああ、それなら別にいいですよ」

674: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:33:43.46 ID:kppVQiBj0
カドワキ「アナタが良くても私が良くないんで…」
相変わらず、トゲのある言い方をしてくるw
でもそれ聞いてすっかり元気になったんだなって思えた

彼女は真剣に「診察台と薬代で…」と言いながら
小さなお財布から、お金を取り出して渡してくれた

俺「なんだかわざわざすいませんw」
カドワキ「いえいえ、こっちですから…」

675: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:41:50.07 ID:kppVQiBj0
カドワキ「いや本当、この前は突然…」
カドワキ「助かりました…ありがとうございました」
よっぽど悪いと思っていたのか、何度も何度もお礼を言ってくる

俺「いえいえ、本当に気にしないでください」
俺もひたすらそう返すしかなかった

俺「じゃ、お金も確かにもらったので…いいですかね…?」
カドワキ「あ、その…ちょっと待って下さい」

677: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:46:47.30 ID:kppVQiBj0
カドワキ「少し散歩にでも行ってみませんか…?」
俺「え?」
あのカドワキさんが、俺を呼び止めている
好きな人が呼んでいる!ドキッとしちゃったよw

カドワキ「その辺を…ぷらぷらと…」
気恥ずかしそうに、そう呼び止めてきた
俺「え、え、いいですけど…いいんですか?」
マジで焦って変な喋り方になってたかもしれない

678: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:49:29.59 ID:kppVQiBj0
カドワキ「や、やっぱりこんな時間だしアレですか…」
俺「あ、いえいえ、少し外の風浴びるのもいいんじゃないですか…w」
カドワキ「じゃあ…」
と言って、2人して玄関から出た

俺が玄関から出て行く瞬間、
番台の奥から親父さんが出てきて
ニコニコしながら俺のことを見ていた

679:名も無き被検体774号+:2013/04/14(日) 17:54:11.36 ID:zY7YW+oWO
親父さんええな~

680: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 17:57:29.58 ID:kppVQiBj0
俺は急いで外に出てきたので
たまたま玄関にあった下駄を履いてきてしまった

歩く度に、「カラン、カラン」と音が鳴った
その音が妙に響いて、歩きづらかったw
俺「うわー、なんだこれw変なの履いて来ちゃったなー」
カドワキ「え、いいじゃないですか」

683: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 18:04:32.99 ID:kppVQiBj0
カドワキ「涼しげで、良い感じです」
俺「えーw本当ですかー?w」
カドワキ「どうですかね?w」
なんて感じに笑いのタネになってくれたから、良かった

しばらく2人で、街灯もまばらな夜の道を歩いた
どこからともなく虫の音だけが聞こえた

家の中は暑いけど、外は本当に涼しげだった

684: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 18:08:13.00 ID:kppVQiBj0
俺「カドワキさんは、ピアノを弾くんですか?」
俺は気になっていた事を唐突に質問した
カドワキさんは一瞬「なんでそれを」みたいな表情をしたけど

すぐに納得して話し始めた
カドワキ「ああ…弾くというか…弾いてた、が正しいですかね」
俺「え、今は弾かないんですか…?」
カドワキ「いや、今も好きなんです…けどなんというか、弾く時間が…」

685: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 18:12:18.45 ID:kppVQiBj0
俺「ああ、忙しいんですよね…」
カドワキ「ええ、今日もさっき帰ってきたので…」
凄く寂しそうな顔になってしまっていた

俺「でも、トロフィーとかあったし、やっぱり上手なんですよね?」
カドワキ「ああ、あれは…」
俺「なんかそういう道を目指そうとか、考えなかったんですか?」
すると、カドワキさんはしばらく黙ってしまった

687: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 18:14:42.75 ID:kppVQiBj0
カドワキ「そんな風に思ったことも…ありましたね」
そう言って寂しそうに笑ってみせた
俺は、「じゃあなんで…」と言いかけてやめた
きっと何か理由があったんだろう

俺「俺、カドワキさんのピアノ聞きたいです」
そして思わず、こんな事を言ってしまった

カドワキ「え……」

 


689: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 18:28:53.31 ID:kppVQiBj0
すると、カドワキさんはたちまち笑顔になったんだ
こんな顔が見れるなんて、って少しドキッとしたよ

カドワキ「本当ですか…?」
俺「ええ、すごく聴いてみたいです」
するとカドワキさんは、履いていたレギンスのポケットから鍵を取り出した
銀の輪に、鍵がいくつもついていた

691: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 18:40:15.55 ID:kppVQiBj0
俺「なんですか?それ…」
カドワキ「いいからいいから」
そう言うと、カドワキさんは少し早足で、俺の前を歩き出した

普段は割と冷めてる事が多いカドワキさんが、やけに楽しそうになった
そしてしばらく歩いて、小さな家のような、施設のような建物が見えた
カドワキ「ここです…」
俺はワケが分からなくて、「はい?」と間抜けな返答しかできなかった

694: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 18:58:18.51 ID:kppVQiBj0
カドワキ「ここは何というか…公民館みたいな…」
俺「あ、なるほど…でもなんでここに?」
そう言うと、カドワキさんはニコッと笑った

カドワキ「ピアノがあるんです」
俺「なるほど…」
俺が一人で納得してると、カドワキさんは先に行って
「こっちですよ」と手を振って呼んだ

696: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 19:09:24.84 ID:kppVQiBj0
カドワキさんは入り口の引き戸を開けていたので、俺は不思議に思った
俺「でもなんで鍵を…?」
カドワキ「ああ…お父さんが町内会の役員?なんで…」

俺はなんでそれをカドワキさんが持ってるんだろうってさらに不思議に感じたけど
それ以上は突っ込まないことにした

カドワキ「すごくちっちゃくて、一階建ての大広間と休憩室しかないんですw」
確かにそうで、中に入ると板張りの広間しかなかった

697: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 19:15:34.02 ID:kppVQiBj0
俺「でも、案外広いんですね」
カドワキ「そうですかねw」

中が予想以上に蒸し暑かったので、二人して窓を開けていく
「虫が入ってきそうですね~」「ありますあります」なんて言いながら

そして、広間の隅っこにピアノが一台置いてあった
その場に置いてあったはたきでパタパタとしながら
カドワキ「久しぶりだなー」
とカドワキさんはピアノを開けた

698: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/14(日) 19:26:49.77 ID:kppVQiBj0
カドワキさんはもうニコニコして、椅子をギコギコ引いて場所を調整した
「よし」と言って椅子に座って、腕まくりをした
そして俺の方を向いて、「どんなのがいいですか?」と聞いてきた

俺はその顔があまりに明るくて、瞬間ドキっとして
「一番思い入れのある曲を…」と言った

カドワキ「そうですか…実は」

 
 

名作

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