同じ境遇で育った親友が狂った話をする
やめろよそういうこと言うの…
出会いは中学の時だった
両親は共に社会的地位が高く、一見幸せな家庭に見えたはず
ただ、両親共に、自分の親を若くして亡くしており、子供に対する接し方がわかっていなかった
>>10
早死にの家系か
両親の両親共に早死にってことはお前の親もそろそろ…
鼻の骨と、指の骨と、肋骨を折り、そのチームにいられなくなり、学校でも一人ぼっちになっていった
だから、俺が皆の前でボコボコに殴られた話は瞬く間に広まり、誰一人話してくれなくなった
ちなみに、俺の小学校の生徒の半分は国家公務員の子供
帰宅中に、官舎の周辺を通ると、何十人もの母親と子供から指をさされて好奇の的にされた
俺も知らなかったんだが、妹が実は癲癇で、学校で発作を起こし、倒れた
当時、癲癇は、世間で最も忌み嫌われる病気と言われており、泡を吹いて気を失った妹は、あまりにもショッキングだったらしく、更なる差別やイジメに繋がった
>帰宅中に、官舎の周辺を通ると、何十人もの母親と子供から指をさされて好奇の的にされた
それ幻覚とか被害妄想っぽいんだが
本当です。懇談会で、僕の実名を出して文句を言ってたくらいですから
妹の癲癇事件から一年後、親父は順調に出世し、半年近く家にいなかったんだが、ある日いきなり帰ってきた
酒もタバコもやらず、趣味は食べる事だけの親父が、30㎏も痩せ死んだような目をしていた
そう、親父が、重度の統合失調症になって帰ってきたのだ
やっぱりじゃん
統合失調症って遺伝するよ
先天性の遺伝ではなく、環境的な遺伝はかなりあるよ
毎日そういう家で生活をしていると、本当に頭がおかしくなる
思考の根本が蝕まれて、何もやる気がなくなるよ
もうすぐでます
それからが地獄の始まりだった
国家公務員のコミュニティは意外と狭く、官舎には何万人単位で人が住んでいたため、主婦は挙って俺達家族を話題のネタにした
それに加えて、インターネットが普及し、闇掲示板と言われる掲示板に、俺達家族の事か書かれたのだ
勿論、友達は0
妹は引きこもり泣いている
そんな生活だった。勉強が好きだった俺は辛うじて学校に行き、気付けば中学二年生になっていた
モコミチは転校生で、例によって例の如く、国家公務員の息子で、地方から引っ越してきた
俺の過去を知らず、イケメンで人当たりのいい彼は、一人でいる俺と自然とつるむようになった
親父は、国家公務員の花形である財務省勤務で、物凄くプライドが高かったが、学歴が地底且つど田舎出身で、そこを連日連夜馬鹿にされたり、三ヶ月睡眠時間二時間で働かされたりして、おかしくなったみたい
それから一年間はとても楽しかった
修学旅行では、隠れて女子風呂を覗いたり、お酒を飲んでひっくり返ったり、オナニーの研究に明け暮れたり、何日も家に帰らず、クワガタを取りにいったりした
人生で始めての彼女が出来たりと、人生のピークを迎えた
そして、高校受験を迎える
俺はどうしてもモコミチと同じ進路を進みたかったが、モコミチは物凄く学力が低かった
勉強たけは好きだった俺は、迷いに迷い、住んでいる地域で一番の進学校を受ける事にした
モコミチは、地元の工業高校に行く事にした
今思うと、その頃からモコミチはおかしくなっていたのかもしれない
昼休みに変な錠剤を飲んだり、遊んでもボーッとしてる時間が多くなった
俺は図書館、モコミチは彼女の家
そして、二人とも合格し、残りの日々はあまり覚えていないが、毎日遊んでいたと思う
高校に進学した俺は、俺の過去を知らない人達に囲まれて、普通に部活をやり、普通に勉強をして、普通の生活をしていた
次第に、モコミチの事を忘れ、気付けば一年間も会っていなかった
再開は突然訪れ、地元のファミレスだった
忘れもしない高校二年の夏
ファミレスで読書をしていた時に、いきなり怖そうなヤンキー集団に話しかけられた
その中にモコミチがいた
国家公務員だけはやめた方がいい
モコミチは、工業高校に入ったが、虐められて半年でやめていた
中学時代からいじられキャラではあったが、俺みたいな嫌われ者と仲が良かったため、一線を超えるいじりはなかった
しかし、高校に入ってから、彼へのいじりを止めるものはなく、一見イケメンなモコミチだが、実は物凄く繊細だったため、鬱病になり、退学していたのだ
あまりの変貌に驚愕した
髪はオレンジ、服装はぶかぶか、息は酒臭く、腕には傷だらけ
とにかく驚いた俺は、後日二人で会って話す事にした
そこで、始めて彼の過去を聞く事になる
彼の容姿がイケメンだったため、苦しんでいるだなんて思わなかった俺は、今まで過去について聞き出そうとは思わなかった
始めて知った過去は俺と似たようなものだった
小学校四年生の時に父親が統合失調症になり、小学校五年生の時に姉が自殺し、中学一年生の時に、母親が鬱病になっていた
彼は、辛い事があると、常に笑い、笑顔て隠そうとするタイプだった
俺は、読書をしたり、映画を観て現実逃避をするタイプだった
そこからまた彼との付き合いが始まる
俺を救ってくれた彼を今度は俺が救いたいと思ったからだ
部活をやめ、塾をやめ、彼と毎日のように遊んだ
色んな話をした。俺と向き合ってる時は、昔のままのモコミチで、何も変わらないような気がしたが、それは大間違いだった
彼の母親から連絡がきて、その旨を伝えられた
何をしたらいいのかわからなくなり呆然としていると、再度連絡がきた
睡眠薬を大量摂取して倒れていたと
急に泣いたり、急に怒ったりしたのが始まりで、その後は、自分の名前をググって嘔吐したり、血を吐くまでお酒を飲んだり、変な絵を描いたり、独り言が多くなった
そして、その頃、俺にも異変が訪れる
モコミチが狂い始めたのもあり、無気力になっていった
それに加えて、今まで父親への恨み辛みで生きてきたのに、父親が病気を克服し、今までの事を謝ってきたのだ
謝られて、最初は嬉しかったが、次の日から何もやる気が起きなくなった
今だから言えるが、否定に対する飽くなき否定は何も生まない
ただひたすらに、こんな親父になるものかと考えて生きてきた俺は、どうやって生きていけばいいのかわからなくなった
自分自身の意思なんて何もなかった
そこからが堕落の始まりだった
とにかく落ちぶれて、汚らわしく、不浄の存在になりたいと思っていたと思う
それが、両親への腹いせであり、自分自身に対する正しいレスポンスだと信じてやまなかった
ネットで女の子に絡み、遊びまくり、やりまくった
学校に行かなくなり、朝から晩まで酒を飲み、俺も日常的に吐血をするようになった
それに対して、どんどんよくなる家庭環境に更なる憎悪を抱くようになった
父親も母親も幸せそうな顔をし、俺に対して最もらしい説教をしてくるようになった。それが理論上正しい事なんて昔の俺でもわかっていた。
ただ、それを受け入れる事なんてできなかった。どれだけの年月を、親への恨みで生きてきたか考えると、どうしても受け入れられなかった。
そしてひたすら堕落していった
肝臓を壊し、入院するまでそれは続いた
今の今まで、親は俺に対する教育を間違ったとは思っていない
上記の謝罪は、金銭的に苦労をかけた事に対する謝罪のみ
俺が肝臓を壊し、入院した頃、モコミチが自殺未遂をした
前述の睡眠薬大量摂取は、一応自殺目的ではなかったらしい
今回は、手首を切っての自殺未遂だった
遺書にはこう書いてあった
「頼むから死なせて下さい。もう何も考えたくないです」
これは後からモコミチに聞いたため、事実かはわかりません
入院中、久しぶりに大好きな小説を読んだ俺は、また一から生きていこうと思った
ヘッセのデミアンを読み終えた時、病棟に響き渡るくらいの声で泣いた
親父が統合失調症になってから一度も泣いた事はなかったが、この時は違った
中学生の時、登校すると毎日靴箱に「お前の親父は引きこもり」と黒マジックで書かれても平気だったのに
この日は次から次へと涙が出てきて、嗚咽も止まらず、三人のナースに慰められて、本当に本当に深く眠った
俺は現実逃避型の人間で、現実の問題なんてちょっとした事がキッカケで解決できるタイプだった
ただ、モコミチは笑い続けるタイプだ
ふと彼が気になった。そう、気になっただけで何もしはしなかった
退院した後、早速モコミチに会おうと思った
だが、メールも電話も通じず、どうやら携帯は解約したようだった
そこで、彼の家に行く事を決意する
死んだ魚のような目をしたおばさんは、見た目は酷いが、モコミチの親友である俺に対してはとても優しかった
彼の居場所を聞くと、数ヶ月会わない間に色々と変わっていた
まず、モコミチの親父さんは病気を克服できず、退職し離婚
モコミチと母親の二人暮らしだったが、経済的に逼迫していたため、モコミチが一人暮らしをして生活保護をもらい、更に障害者手帳二級のお金ももらっていたのだ
始めて生活保護だとか、障害者手帳という単語を聞いた俺は、途方に暮れて唖然としていたが、モコミチがより一層狂った事は容易に想像できた
今でいうと、不正需給に近いのかもしれないが、その全貌はあまりにも酷かった
最早、お金なんかでは修復不能な人間の脱け殻を見ているようだった
やっとの事でモコミチと再会した俺は、彼の姿に驚いた
彼は細身のイケメンだったはずなのだが、一日に何十錠も薬を飲み、その中に激太りする薬があったようで、20㎏くらい太っていたのだ
ガマガエルのような顔をしており、昔の面影はなかった
彼は細身である事に自信を持っていた
その姿はオシャレで、カッコ良かった
周りも、彼を褒める時はそこを褒めていた
だからかもしれない
僅かに残った理性や人間性が罪だったのかもしれない
彼はその後、重度の過食症と拒食症に苦しめられるようになった
皮切りは過食症。食べるのが好きだった彼は、薬ではなく、食べるから太ると考えた
既に薬漬けにされており、マトモに考えられない彼は、吐いて食べ吐いて食べを繰り返すと、体重が増えないという当たり前の事実に傾倒していったのだ
俺も部活をやめてちょっと太った事がある
普通の人間は、食事を減らしたり、運動をして痩せようとする
ただ、あまりにも思考回路が捻じ曲がった人間は、食べる行為そのものを忌み嫌ったり、吐く行為を神聖な儀式だと思うようになる
強い人間からすると、吐けば痩せるなんてアホだと思うかもしれないが、世の中には思考の根底がこういう部類の人もいる
無論、本人達はそんな事を思ってはいないが、本質はこれほど簡単なものであったりする
モコミチは、一日に15000カロリーを摂取すると同時に、それを吐き出した
それを繰り返しいくうちに、食べる行為を悪と思うようになり、食べ物を口にできなくなった
高校三年の夏頃だったか
モコミチは185/45くらいになった
昔は185/58だったかな
骨と皮しかなく、部屋のソファーから動く事はなかった
薬を飲むための水すら飲めなくなり、唾をコップに貯めて、それで何十錠もの薬を飲むようになった
どうにかしたいと思った俺は、彼を外に出そうと思い、色んな所に誘った
だが、決して来る事はなかった
目は半開きで、一日の大半を寝て過ごすようになった
部屋は施錠しておらず、自由に入る事ができたため、毎日のように会いに行き、話し掛けるようになった
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